栗生歩道の位置の地図栗生歩道・ビャクダンガ峰・大洞杉・お谷ヶ滝

 屋久島の南西端の集落である栗生から奥岳に上がる道。湯泊歩道のように顕著なピークも途中になく、花山歩道のように原生自然環境保全地域に延々と接し続けていると言うこともないけれど、屋久島らしい苔と大木の続く感じの良い道であった。国土地理院地形図や昭文社の「山と高原地図」に載っているものの、一時は利用者の少ないこともあってヤブが生い茂り廃道寸前になっていたというが、2004年に観光協会によって環境省グリーンワーカー事業を受けて再整備され、歩きやすい道が復活した。

 「山と高原地図」では1130mの黒味林道交差点より下部は林道を使用するように記載されているが、現在この黒味林道は営林の役割を終えて、荒れて乗用車どころか歩行もままならないらしい。交差点より下部も450m地点まで歩道が再整備されたので歩いて辿れる。450m地点までは林道も自動車で通れそうである。

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★花之江河〜黒味林道との交差点(標高約1130m)
参考時間・・・花之江河-0:35-ビャクダンガ峰-0:40-遠望石-1:15-黒味林道1130m(交差点)

栗生歩道の地図1栗生歩道の地図2

 下り記録である。2004年再整備ということで基本的にかぶるヤブはなく、道を塞ぐ大きな倒木にも殆ど目印テープがつけられていた。ただ、一たび台風が来れば新たな倒木は生じるわけで、利用者の少ない道だけにルートファインディングの能力をもって歩く道ではある。目印テープは少なめであった印象。

 花之江河から西へ、湯泊・栗生方面へ道をとる。道は新しい階段などもありよく整備されている。すぐに湯泊歩道との分岐に達する。再整備の、より新しい栗生歩道の方が広くなっている。

 道は緩やかに登り、最高点を通過する。最高点付近は道の両側に10mほど離れて巨岩がある。巨岩までは両側とも踏み跡があるが、進入しないように入口付近には小枝が積んであった。北側の巨岩は登れないが雨宿りが出来そうだ。南側の巨岩は登れるが巨岩自体が最高点ではない。黒味岳の展望が開ける。2004年度版の昭文社の「山と高原地図」には黒味岳周辺に「西黒味岳」、「東黒味岳」の文字がある。淀川口から宮之浦岳を登っていても、どこが西黒味岳と東黒味岳なのかよく分からなかったが、ここから眺めると西黒味岳、東黒味岳とも名前が付けられた事にうなづかされる姿である。

 頻繁に現れる小さめの屋久杉を眺めながら最高点から下がっていくと、一旦小さく露岩の上を歩き、更にシャクナゲの森を下っていくと10個以上と思われる割れた巨岩が散乱する小さなコブがある。屋久町郷土誌の栗生の岳参りの所で登場する「ビャクダンガ峰」と思われる。地図等でここをビャクダンガ峰とされているのを見たわけではないが、当頁ではここをビャクダンガ峰としておく。ビャクダンガ峰は地図上では顕著なピークではないが巨岩が多数存在し、雨宿りも出来、何となく神秘的な雰囲気を感じた。古い焚き火跡とガラス瓶の破片が見られた。ここも巨岩は歩道から10mほど離れていて踏み跡の入口はややわかりにくい。メインの巨岩には登れなかったが手前の少し小さな岩には登ることが出来て黒味岳方面を望むことが出来る。巨岩の下から本高盤岳(トーフ岩)も見えるが、豆腐には見えず鋭鋒となる。

 遠崎史朗著「海上アルプス屋久島連峰」に出てくる「サクラ岩」もビャクダンガ峰のことと思われる。「花びらのように、放射状にひらいた巨大な岩」とあり、岩の下でビバークできそうだなどと書かれている。


最高点付近から西黒味岳

最高点付近から見下ろすビャクダンガ峰

本高盤岳(トーフ岩)

ビャクダンガ峰巨岩近景

 ビャクダンガ峰を後にすると屋久島らしいスッキリした杉を中心とした巨木の森が続くようになる。かなり長く雰囲気の良い森が続く。斜度も適当で歩きやすく、雰囲気の良い森が花山歩道より長く続くような気がした。

 時折、きれいに磨かれた丸太の階段がある。滑りやすく、歩く分にあまり歓迎できるものではないが、たかだか戦後・高度成長期以降ではあろうけれど、この階段が整備された後、久しく人が殆ど歩かず、2004年に再整備で刈払いが行われるまで日の目を見ていなかったかと思うと「よくぞ残っていてくれた」と声を掛けたくなる。植物の名前を示す看板もまた然りである。

 道の東側には怪しいことが言われるメンガクボの盆地が広がっているはずだが、樹林に遮られて雰囲気も分からない。


遠望石より七五岳北壁

 遠望石に着くと高さ400mと言われる一枚岩の七五岳北壁が見えるが真南にあたるので、逆光になり岩が黒っぽくしか見えないのが残念である。「遠望石」の名は赤星昌著「屋久島」にのみ、その名が現れ昭文社の「山と高原地図」では「露岩の展望台」としてだけ記されているが、久しく誰も登らなかったのであろうか、露岩の上には潅木が生い茂っている。標識の類もなく、岩の上にあがる為の踏み跡なども見られなかった。また、「遠望」と名は付いているが、七五岳方面の南側しか望めない。すぐ傍にツガの大木がある。

 少しだけやや急な斜面を下りてまもなく花之江河を出てから最初の水場を渡る。シシノ川である。その先、両側に穏やかな沢の風景を望む細い尾根上の歩いたりして標高を下げていく。この細尾根上から眺める特に右側の沢は花崗岩の風化して出来た白砂の浜と苔と木々の緑が非常に良いコントラストで美しい。1280m付近では尾根の南側をトラバースし再び七五岳が見える。


遠望石

木の間越しの宮之浦岳

 この後、北側の展望が木の間越しに見え出す。宮之浦岳の山頂が見えているのにはちょっと驚いたが、地図を改めて見直すと見えていてもおかしくない。なかなか写真を撮るほどすっきりと望めないが、黒味林道との交差点に下りる直前に小楊子川右股の源流域の最奥に宮之浦岳と翁岳がちょこんと並んでいるのを望める展望台(?)がある。

 黒味林道は、下手方面は路盤にまで杉の若木が茂り、久しく通行されていない姿である。登山口を示す看板には、ここから花之江河まで120分と書いてあった。2004年の昭文社「山と高原地図」では倍以上の270分掛かるとされている部分がである。モッチョム岳の古い看板の所要時間も短くて疑問を感じるものがあったが、この辺はどういう経緯でこういう記述になったのだろうか。昔の人は足が速かったのか。

 昭和50年代以降、黒味林道が使えた頃はここが登山口となり、ここより下部の栗生歩道は廃道になっていたという。


登山道(花之江河へ)の
入口

120分で花之江河まで
行けるそうだ

黒味林道の
様子

栗生歩道の地図3★黒味林道との交差点(標高約1130m)〜登山口(標高約450m)
参考時間・・・黒味林道1130m(交差点)-0:05-大洞杉(山林官舎跡)-0:40-ミヤコダラ広場-1:20-黒味林道450m(登山口)

 黒味林道を横断して栗生歩道の下部へ進む。入口は植林された杉の若木の茂みに開けられた穴のようでパッとしないが、一旦入ってみると苔生した自然林で決して悪いものではない。二次林であるとは思うのだが、地図に伸びる黒味林道の存在から一面に杉が植林された森を想像していたので驚いた。

 5分ほどで大洞杉に達する。大洞杉は横たわった空洞のある巨大な屋久杉の倒木で、上部は鋸で切り取られている。空洞の下で雨宿りが出来るほど大きなものである。すっかり苔生している。周囲には石垣や整地された跡、古いガラス瓶の破片などが落ちていて、これが昔の地図にある「山林官舎」の跡であろう。

 この先、地形図の登山道の記載とは栗生歩道の位置は少し異なっている。大洞杉の先でそばに湧き水のある小沢を横断して少し登り、斜面を水平にトラバースしていく。

 道は一度は廃道扱いされていたとは思えないほど馴染んでいる。照葉樹林下では踏み跡というものは残りやすいらしい。林道や山林官舎があったにしては途中に様々な種の巨木もあり良い雰囲気だ。ただ、尾根上だけが自然林として残されて、その中を歩いているだけであったのかもしれないが。石積みの小沢の樋などを見かけると昔から大事にされてきた道なのだろうなと感じる。


登山道(登山口へ)の入口

森の様子

ヒメシャラの大木

大洞杉

 標高1000m付近で2度ほど近接して森が開けて平坦地があり、幕営できそうな場所が現れる。下手のものが「ミヤコダラ広場」で、すぐ傍に小沢が流れていて水を得ることが出来るが、上手の広場の方が乾いた感じで幕営するには快適そうだった。

 まもなく道はそれまでの緩やかな傾斜から降下を始める。森は尾根状の乾いた雰囲気となり、細い低木が多くなる。標高が下がるにつれて踏み跡と目印テープがかみ合わず、踏み跡が錯綜しているように感じる箇所が出てくるようになる。元々歩道と言っても弱いもので、何度もあった廃道の危機ごとに新しく踏み跡が作られて輻輳していったのだろうと思う。今、歩くとなっては注意を要するがそれほど道自体から離れてしまう可能性は少ないのではあるまいか。


登山口の様子

立派な黒味林道

 標高700mを下回ると森の中は照葉樹林の樹冠ですっかり暗くなる。足元のシダも何となく南洋を感じさせるものとなり、クワズイモの輝く葉が見られるようになるとまもなく登山口に下り立つ。登山口は何の標識もない目印テープが下がるだけの薄暗い所で、周りの森と区別がつかず、ここから登り始めるには慎重に入口を探さなければなるまい。出来れば小さなものでいいから登山口を示す恒久的な看板か杭を立ててもらえればと思う。

 本来の栗生歩道はここでも黒味林道を横断して更に下降し、標高350m付近でフンドノ川を渡渉し、黒味川右岸の尾根に乗って栗生集落に続いていたという。明瞭な踏み跡が残っていたら辿ってみたいと考えていたが、下側に旧栗生歩道の跡を見つけることが出来ず、諦めて林道を栗生まで下山することにした。フンドノ川の「フンドノ」とは何だろう・・・?


栗生・黒味林道の地図★登山口〜お谷ヶ滝〜栗生
参考時間・・・黒味林道450m(登山口)-1:05-お谷ヶ滝-0:45-栗生集落 


栗生の展望

お谷ヶ滝

 黒味林道は登山口辺りでは現役で、幅も広くよく整備され、新しい轍も見られた。すぐに栗生の町を眼下に見下ろす展望の良い場所を通る。ここはどうもそれなりに多くの人が来るようで路肩から3mほど登る手頃な高台には踏み跡が見られた。

 この先、地形図ではヘアピンカーブで林道をショートカットする歩道が記載されているが、この歩道も見つけることが出来なかった。一帯は杉の植林で林床にはクワズイモが茂っている。

 標高180m付近に2003年にはあった林道のゲートは撤去されたらしい。

 標高160m付近の、地図上では小楊子ヶ峰のちょうど対岸にあたる辺りで小楊子川から滝の音が聞えてくる。「お谷ヶ滝」である。林道から適当にヤブを下りて行けば滝を見られそうだと考えていたのだが、慌てて下りてはいけなかった。お谷ヶ滝の上は高いスラブ壁に囲まれた険悪な様相をしており、下手に降りようとすると危険であった。滝の音がやや後方になってからが下り時である。下り頃を間違えなければヤブを掴んで川岸まで下り立てる。私は慌てて下りて下り立てず、林道に登り返して30分大汗をかいてロスした。

 お谷ヶ滝は見えている最下段が5段30mのイナヅマ型にはじけた水流の大きなナメ滝である。私の下手な写真では大きさが伝わらない感じになってしまったが、かなり大きな滝である。見えている上に更に滝が続いているらしい。栗生集落の人に昔から親しまれていたという。

 お谷ヶ滝から栗生へは林道へ登り返さなくても、小楊子川の左岸に明瞭な踏み跡が小楊子川橋まで続いている。途中の林内には石垣の詰まれた場所があり、人家か畑があったようだが、原野に戻ってしまったようだ。最後に少しだけ斜面をトラバースする杣道のような形となり小楊子川橋の袂に下り立つ。橋の袂の脇は斜面が立っているので奥に入れる踏み跡があるとは分かりにくい。小楊子川橋はまだ(2005年現在)地形図に記載されていないが屋久町石楠花の森公園の裏口に至る道で、舗装された車道である。

 柑橘類の畑に囲まれた道路をのんびり歩いて栗生の町に達する。みかん畑に犬と犬小屋が多く見られた。猿除けの犬かも知れないと思った。

参考文献
太田五雄,屋久島 宮之浦岳(山と高原地図59),昭文社,(2004).
屋久町郷土誌編さん委員会,屋久町郷土誌 第1巻 村落誌 上,屋久町教育委員会,1993.
遠崎史朗,海上アルプス 屋久島連峰,雲井書店,1967.
太田五雄,屋久島の山岳,八重岳書房,1997.
三穂野善則,山岳,屋久島,赤星昌,茗渓堂,1968.



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(2005年10月26日上梓 2017年7月6日URL変更 2021年11月15日地図書き直し)