ヒメカカラ |
屋久島の西南部にあり、鹿之沢小屋から大川の滝の上付近に至る道。鹿之沢小屋から上では永田歩道に合流し、永田岳に至る。日本国内の自然公園の類では最も厳格に守られる「原生自然環境保全地域」に隣接しており屋久島の中でも最も原生に近い森の姿を見ることが出来るといわれ、縄文杉が屋久杉のスーパースターなら、花山歩道は森のスーパースターと言われる。下りの記録。
永田岳山頂から鹿之沢小屋までは、永田岳のページを参照。
鹿之沢小屋の左手の後ろにまわるように花山歩道は小屋前から分岐する。その道はすぐ小さな流れを渡るが、渡った先の続きがわかりにくい。流れを渡ると小さな湿原に出る。ヒメカカラ(極小の南洋分布のサルトリイバラ類)が多くかわいらしい。木道はミズゴケ類に埋没しかかっている。さらに2本小さな流れを渡り、尾根の北面をトラバースするように登っていく。じめじめしていて季節によってはヒルが出そうな所だが、見かけなかった。
ひと登りで登りきり、平坦なシャクナゲ林を進むと背後にローソク岩を従えた鋭い永田岳の姿が望まれる。お立ち台のような露岩が2回あらわれ、すっきり見られる。大きさは感じないがここからの永田岳はかなり格好良いと思う。ここから先、対岸の尾根の林などは見られるが奥岳の山々がすっきり見られるところは下山まで見つけられなかった。
道の左(南)側はこの辺りから原生自然環境保全地域だ。しばらくはどうということのないヤブっぽい樹林だが、次第に下草がすっきりして大きな木が現れ出す。杉だけではなくいろいろな種類の大木がある。浅はかなイメージだが「もののけ姫」のCM映像の断片がまず思い浮かぶアニメチックですらある原生自然環境保全地域の姿である。時折見下ろせる稜線には常緑樹の葉が花のように輝き「花山」と名づけられた意味が分かる気がする(杉を花に例えての「花山」という呼称との話もあるが・・・?)。歩道の上の方では爽やかと言うべきか、陽に当たるすっくと伸びる太い幹を眺めながら歩行だが、下るにつれ常緑樹が混じり鬱蒼としてくる。鬱蒼感は大竜杉の上辺りが最高潮で、それより下では乾いた感じの照葉樹林となる。花はサザンカ、ヤクシマツチトリモチ。
途中、昭文社地図にある大石展望台はどこだかわからなかった。もしかしたら地図が違うのかもしれない。鹿之沢小屋から登りきった永田岳を眺められる露岩が大石展望台の名にふさわしい気がする。道はそこそこ整備されていて目印テープもあり迷うようなことはないだろう。しかし下りながらつけられたテープだとしたら登りでは、立ち止まって次のテープを探さなくてはいけないこともあるかもしれない。カスミ谷展望台もまたどこだかわからなかった。
大竜杉の上の標高1250m付近は平坦な窪地で無名の大きく背の高い屋久杉が数本ある。ここを花山広場と言うそうな。何か夜の儀式が催されそうな雰囲気でゾクゾクする。大竜杉は背が低く、南側にだけ巨大な若い枝が龍がのた打つように伸びていてバランスが悪そうだ。倒れないことを祈りたい。
最後に細い水流を左に見て登山口に下山する。水場は林道上登山口のすぐ手前の沢から得られる。ダメでも大川まで行けば得られる。
2002年現在、タクシーは道が悪いという理由で登山口まで入ってくれないらしい。歩いてみた感じではそれほど悪い道とは思えなかった。林道は乾いた感じで、登山口付近の沢以外では水は得られないようだ。また、一部のガイドブックには花山広場でも水が得られるとあるが、今回十分水を持っていて探さなかったこともあるけれど、すぐに水があった記憶はない。地形的に見て少し北側の谷に下れば得られるのではないかとは思う。水流による白砂が見えていたし、下に進みすぎなければ危険な地形でもなさそうだった。登山口の看板はグズグズに腐って崩れていた。
登山道下部の林道の大川の対岸は、鳥越峰の尾根だが皆伐されていた。
林道は長い。大川林道が島を一周している県道の舗装道路に下りる地点は本当に何もないところで、最寄りの「大川の滝」バス停までは戻るように北方へ15分ほど歩く。バス停にもバス停の標識と水が汲める場所以外に何もない。
花山
「花山」は杉とか常緑樹が花のように見える山ということではないと思う。杉も常緑樹も花山歩道沿いだけでなく、屋久島なら殆ど全てにある。屋久島の高所で花山と同じく「花」が頭に付く花之江河がある。花之江河も杉も他の常緑樹もあるが咲き誇るように茂っているわけではなく、高山植物のお花畑があるということもない。花之江河は奥岳の一角の大きな窪地の湿地である。海岸から急峻に立ち上がる斜面の傾斜が緩んだ屋久島の高台(塙)である最高所の一角の窪みということの「はなわ(塙)・の(助詞)・えご(山地の窪みやそこにある水溜り)」の訛ったのが「はなのえごう」でないかと思う。花山歩道の花山は、花山広場のある尾根上の少し広がった緩傾斜の高台を「はなわ(塙)・やま(山)」と言ったのが約まったのが「はなやま」でないかと思う。直線的な細長い窪地で「ふな(舟)・の・えご」、「ふな・やま」の転かとも考えてみたが、花之江河は細長くなく、花山広場の脇にある二本の緩い谷筋も直線的でない。
小屋周辺の杉 |
鹿之沢散策
鹿之沢小屋で時間が余りそうだったら、渓流シューズを持っていって鹿之沢散策がおすすめ。鹿之沢小屋から永田歩道七ツ渡しまでの1kmは、屋久島登山の第一人者太田五雄氏もその著書の中で「屋久島でも最も美しい渓谷の一つ」と語る、いわば細長い天然の回遊式日本庭園で、心洗われるものがある。淀川小屋周辺に比べると広がりとせせらぎのないのが難か。その代わり、小さくても豊かな湿原が川沿いに点在する。
鹿之沢小屋
鹿之沢小屋は石造りの青いトタン屋根の小屋。石のつなぎ目に生えている苔がいい味を出している。トタン屋根なので雨が降ると雨音が大きく響いた。鹿之沢小屋のトイレは小屋からかなり離れている。トイレまでの間に我慢できない人がしてしまったモノで臭くなっているヤブ気味なエリアを通過して、小沢を渡る。対岸は2mほどの岩場でロープが下がっている。その岩を越えた先の永田歩道の左手にトイレの建物がある。トイレを使って欲しいと思うが、催してしまったら岩場のロープを掴むのも大変である気はする。
鹿之沢小屋周辺の図 |
参考文献
太田五雄,屋久島 種子島(山と高原地図66),昭文社,(1997).
足利武三,九州の山(アルペンガイド20),山と渓谷社,1999.
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