位置の地図北大雪(比麻奈山〜有明山)縦走路
比麻良山・文三岳・天狗岳

 表大雪に比べると影も薄く、登山者も少ない北大雪にも縦走路が21世紀になって作られた。どういう経済的経緯か知らないけれど、すごく立派な道だった。標高では表大雪よりやや低いものの変化に富んだ楽しい縦走コースであった。


 平山から比麻奈山・比麻良山を経て文三岳まで岩礫のお花畑とハイマツ帯が続く。赤い標柱が道を示しているが、時折不明瞭な部分もある。ヤブはない。

 比麻奈山は二つのピークが隣接しており、ニセイカウシュッペ山方面のジャンクションである西峰でなく東峰が最高点である。比麻良山はスレートが積みあがったような山容で扁平だが城のようだ。三角点があり山頂は広くスレートのような岩が敷き詰められ大休止に良い。ここからやや道は不明瞭になる部分もあるが基本的にしっかりしている。不明瞭になるのは低く薄いお花畑の部分で踏まれていない故だ。


比麻良山へ

文三岳へ

有明山・天狗岳

1600mまで展望

 文三岳にはスレートを積み上げた1m程度のケルンがあり、小さな山頂標識が近くのハイマツにぶら下げられていた。山頂からはこれから下る稜線がずっと見える。1600mあたりまでそれまで同様のお花畑とハイマツが続く。このあたりには岩礫の広場のような部分があり、登ってくる場合はここでニセイカウシュッペ山アンギラスが初めて間近に見えることになるだろう。

 少し右に折れて少しだけトラバース気味となり、ハイマツ帯に入る。ナキウサギの声が高い。すぐに左に折れるとハイマツの丈が非常に高くなる。かなり苦労して刈られたようで、伐られたハイマツの枝がたくさん落ちていた。再び右に折れると樹林帯に入る。


風穴地帯

アンギラス

ハイマツを刈り分けた道

チトカニウシ山

 樹林帯に入ると展望はなくなる。道は横断する小さな木の根まできれいに道幅で切られており、多少低い草が生えて土が安定し非常に歩きやすい。しかし、あまり登山者が増えるとこういう道は雨裂が発達し、部分的に泥で滑りやすい箇所が現れ、歩きにくくなるのかもしれない。


岩礫帯で登山道を示す
標柱

文三岳山頂の
ケルン

ネマガリ&樹林帯の道

ハイマツ帯に
キノコが多かった

 標高1400mほどで水の音がして道のすぐ西側に湧き水の水場がある。ここは支湧別川上二股沢の源流の一つである。5分ほど湧き水の流れは道に平行し、水流が道から離れる部分は広くネマガリタケが刈り分けられていた。水も得られる縦走路の中間地点として幕営を考えよと言うことなのかもしれない。単に刈り分けの基地だったのかもしれないが、ここは大雪山国立公園の範囲外なので幕営の制限は気にする必要はなさそうだ。

 道はほぼ水平となりネマガリタケに囲われた道となり、さらに5分ほどで分岐に達し、赤い目印テープが大々的に渡してあった。ここで右に5分ほど下りると林道跡に下りる。林道跡は少し前の地形図では二重線であったが、近年のものは点線扱いになっている。林道跡に下りて白滝に下りる方向を見ると道はしっかりして草も全くかぶっておらず、二重線はともかく点線にまで格下げすべきなほどに車両通行不可になっているようには見えない。実際、この道から登山道整備の機材も上げていたのではないかと思われる。林道跡は平坦で、すぐそばの小沢で水を採ることも可能であり、幕営にも適している。分岐から有明山を往復し、この林道跡を下山して平山登山口へ戻ることも足の速い人なら日帰りで可能かもしれない。林道跡の登山口から平山登山口駐車場までは約15kmである。


分岐の様子

登山口には大岩に
「仮道」と書かれていた

登山口の前は林道跡が
少し広くなっている。水も取れる。

 分岐から有明山へは平坦な地形から少しずつ傾斜がかかってくるが、最後まで緩傾斜である。ネマガリタケが減り、雰囲気の良い針広混交林となり、1500m付近からハイマツとアカエゾマツの岩礫斜面の道となる。苔の岩の隙間が多くあり、ナキウサギの声も聞こえるがシマリスの鳴き声もよく聞こえた。アカエゾマツの梢には種類はよく分からないが鷹が留まっているのが間近に見れた。ハイマツの種を食べにハイマツのヤブの中から登山道に現れるシマリスを狙っていたのかもしれない。ハイマツを食べると言えばホシガラスも多く間近に見られた。


林道跡上流側は
荒れている

倒木をくぐる

有明山山頂直下は
激しいハイマツ

 次第にアカエゾマツが減り、1550mの段差で一旦樹林が現れるがすぐに通り越し、あとは山頂までハイマツの中である。山頂が間近になると背後にニセイカウシュッペ山をはじめとした北大雪の主要部の展望が広がる。

 7年前に春山で有明山に登ってこの展望を眺めた時、平山に続くこの稜線を見て自分は春山でもこの稜線をつなぐことはないだろうと、見える遠さにため息をついたものだが、歩いてみると意外と近かった。

 有明山山頂は広いが広すぎて三角点に達すると高いハイマツに遮られ西側に展望はないが、広い道を移動すれば自由に見える。三角点の周りは三叉路になっていて南側への踏み跡には赤テープの通せんぼがしてあった。これは昔の有明山と天狗岳の縦走路の跡で、南側を回りこんで1500m付近で現在の縦走路に合流しているのが天狗岳から見えるが放棄されているのだろう。

 天狗岳へはこの通せんぼでなく新しく刈り分けられた雰囲気とハイマツの落とされた枝が残る東側への道を辿る。道は広く刈り分けられ稜線を忠実に辿って最低鞍部へ下りている。1500mで旧道跡を見、その後一旦薄い樹林帯に入るが最低鞍部は草原状である。この後、樹林の中の急傾斜を登ると天狗岳山頂の岩場に出る。


有明山から天狗岳を望む

天狗岳から有明山を振り返る

屏風岳(比麻奈山付近から)

★山名考

 ヒマラヤ山脈を思わせる響きで北海道夏山ガイド1)に謎の山名のように書かれている比麻良山。北海道夏山ガイドでは「アイヌ語のヒム・オマ・ヌプリ(崖のある山)が語源と言う」と書かれている。しかし自分の知る限りで「ヒム」で「崖」の意味になるアイヌ語を知らなかったので少し調べてみた。

 オマomaは「そこにある」と言うような意味で、ヌプリnupuriは「山」の意味。「ヒム」だが、既に古典に近いが今でも時に用いられる知里真志保の「地名アイヌ語小辞典」2)をはじめ、20世紀末発行の幾つかのアイヌ語辞典3)4)5)でもヒムというカタカナ発音に対応する項は見当たらない。

 平山登山口のある白滝村(現在は合併して遠軽町)の村史(1971)6)を見ると、その中に地名考はなかったが「景勝比麻良山」の章で「比麻良山(通称ひら山)は・・・上川町の境にある海抜1796mを中心とした山塊である」と説明されていた。1970年代には「ひらやま」の名が、扁平な山上台地一帯の名として呼ばれていたことが窺える。その台地の一角の平たい所の最高点であることから「ひらやま」の位置は現在の1711mの位置に狭まっていったのだろう。

 平山・比麻良山を境とした西側の上川町史(1966)7)を見ると地名解があった。比麻良山の項は、「pira oma nupri (ママ) 比良はpiraで崖または柱状摂理。麻はoma有るのオの省略されたもので『崖ある山』の意」とあった。この地名解はどうも、比麻良山を比良麻山として解したようだ。pira oma nupuri[崖・にある・山]は言葉を曲げての解釈だったように思われる。音韻法則上は発音はピラマではなくピロマとなりそうである8)。自分の調べ漏らしも勿論あるだろうが、比良麻山にせよ比麻良山にせよピラマヌプリにせよ、大正以前の資料で見たことがない。怪しいアイヌ語地名のような気がする。大正以前におけるこの名の存在をご存知の方が居られたら御教授願えれば幸いである。比麻良山は平山(ひらやま)にヒマラヤを掛けての、高山であることを含ませたアイヌ語とは関係ない新しい山名でなかったろうか。

 北海道夏山ガイドの記述は、この上川町史を元にして更に誤伝聞があったのではないかと思う。

 文三岳は当初、北海道夏山ガイドで「文蔵岳」と書かれていたが新しい版9)で「文三岳」に改められ、その山名の由来も記された。元営林署職員で、一帯の山岳監視を行っていた田中文三氏に因むと言う。比麻奈山は比麻良山から更に遊んでの山名であろう。

参考文献
1)梅沢俊・菅原靖彦,増補改訂版 北海道夏山ガイド3 東・北大雪 十勝連峰の山々,北海道新聞社,1995.
2)知里真志保,地名アイヌ語小辞典,北海道出版企画センター,1984.
3)田村すず子,アイヌ語沙流方言辞典,草風館,1996.
4)中川裕,アイヌ語千歳方言辞典,草風館,1995.
5)萱野茂,萱野茂のアイヌ語辞典,三省堂,1996.
6)白滝村史,白滝村史編さん委員会,白滝村,1971.
7)小池一,アイヌ語地名解,上川町史,都竹一衛・青野績,上川町,1966.
8)知里真志保、アイヌ語入門,北海道出版企画センター,1985.
9)梅沢俊・菅原靖彦,最新版 北海道夏山ガイド3 東・北大雪 十勝連峰の山々,北海道新聞社,2004.


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(2008年8月27日上梓)