烏帽子山
高田川 栂谷沢登り

 那智の滝の裏山に当たる山。栂谷は初めての人向きの沢で、途中から沢沿いに登山道も合流してしまい、経験者には少し退屈かも。しかし下流部はジャングルを思わせる樹林の中で探検気分が味わえる。ナメも美しい。麓の高田集落は美しい農村だ。


 高田バス停に着く夕方は冬型の気圧配置で北風が非常に強かった。バス停からさらに先へ歩いてツェルトを張れそうな場所を探す。300mほど先に川水浴場の広場があり、キャンプ禁止と書いてあったが暗くなってしまったので導入路の法面の下の陰にマットだけ敷いて寝させてもらうことにした。星が非常にきれい。


山蜜の蜜箱

 朝、起きてみると高田集落は非常に美しいことに感銘した。予定では下山は那智の滝を予定していたが俵石経由で高田に戻ってくることに変更した。道端にはフユイチゴの赤がまぶしく食べながら行く。

 道が山に入ってくると道路脇に切り株ほどの高さの丸太に屋根をつけたようなものが並んでいる(右の写真)。初めて見た。野生のニホンミツバチに巣を作らせて蜜を取るべく置かれたものだと言う。「山蜜の蜜箱」とか「ゴーラ」と呼ぶそうな。この地方らしい気がする。

 栂の平橋で沢装に履き替えて入渓。橋周辺は自動車を停められるほど道幅は広い。沢に入ると乱れる導水管が目障りだがすぐジャングルのような様相になる。あまり見たことのない様な気がする苔や羊歯。水は非常に少なく沢登りと言うよりは沢歩きだった。ナメ滝がちらほら現れ、導水管が見えなくなるとまもなく第一の見せ場、ヤケベ岩の垂壁(左下の写真)。岩の上と淵に映る空が青く、コントラストが美しくしばし休憩する。イワヒバがたくさん生えている。ヤケベ岩はハネオキーとも言うらしい。

 ヤケベ岩の上流はしばらくナメ床が連なっている。地図の屈曲形そのままにナメ床である。水の量が少なく雨樋にスポイトで水を流しているような感じだが、台風など来たらここを轟々と大水が流れるのであろう。

 ナメ床の岩は目が粗い感じだがツルツルだ。日高の沢よりフリクションが悪い気がする。


朝日に輝く
ヤケベ岩

 しばらく行くと「行者道登山道」の標識があり、そこから上流は登山道が沢沿いについている。この道は高田から上がってくるようだが登山口には気がつかなかった。また、登山道とは言え、沢沿いの踏み跡程度であり、危ない桟道などもあり登山道としては上級者向きと思われる。沢床のナメ床を歩く箇所もあり水が増えたら登山靴では難儀かもしれない・・。


稜線間近の岩屋

 標高600mの二股は水量は左だが沢形は右の方が大きいので注意していないと間違えそう。700mを越えるとほとんど水は無くなり時々染みだした水によるアイスバーンが現れたりした。ジャングルは杉の植林に変わり味気ないが鬱蒼感はある。稜線のすぐ下には雨宿り出来るかもしれない岩屋があった。

 稜線に出た後ははっきりした登山道歩き。山頂のすぐ手前の帽子岩は梯子がかけてあり、簡単に登れて展望がよい。雪化粧した大台ケ原方面が見える。熊野は大台ケ原以外は際立った山のない地域だなぁと感じた。正月の南国だと言うのに誰も登っていなかった。

 下山は真東に延びる尾根から俵石集落跡を経て高田に戻る。栂の平橋のすぐ奥まで山道である。俵石の集落は完全に廃村で、家屋は崩れかけたものがひとつだけ残っているだけだった。俵石は江戸時代の里高田の新田集落だった3)。すっかり山林に転用されて杉を植えられた棚田の石垣や家の土台がそのままなのが悲しい。車の入れない山道の奥だというのに手回し脱水ローラーのついた重そうな洗濯機と大きなテレビが放置してあった。今のまだ若い杉の植林が木材として搬出される時に、合わせて回収されるのだろうか。

 高田からお昼のバスの便で新宮に戻った。

参考文献
1)茂木完治・手嶋亨,すぐ役立つ沢登り読本,東京新聞出版局,1991.
2)新宮山の会,南紀の山と谷,新宮山の会,1977.



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(2002年1月31日上梓 2011年4月3日リニューアル)