ぼんず山(154m)

 室蘭の街の南側に連なる峰々の一つ。この山は北側にほとんど木が生えておらず、全体がミヤコザサで覆われていて、絵鞆半島の中でも色合いが他と違い、鋭く尖って目立っている。坊主頭である。増市や小橋内の街から、また測量山鍋島山からも指呼できる。白鳥湾を挟んで陣屋町・本輪西方面からも指呼できる。確かに坊主頭のような姿だ。ローソク岩展望の駐車スペースから踏み跡が続いており、10分ほどで登れる(2009年4月)。

 山頂には航空測量の反射板があった。眼下にはローソク岩やマスイチセのカモメの糞で覆われた白い岩などがよく見える。凝った作りの新しい追直漁港もよく見える。

ぼんず山の地図

★山名考

 明治26(1893)年の海図ではマタエクル山と山名が振られていた。ぼんず山の両脇が北西側のポロマタイコリと南東側のポンマタイコリである2)。マタイコリはインフォーマントによって発音が異なっていたようで、マタイクロというものがあったという。マタエクル山の名も、その場所がマタイコリのすぐそばであることからマタエクルとはマタイコリの発音上の差と思われる。マタイコリの意味・解は mata ikori[冬・狩り]とされ、冬場の獲物が獲れる場所というような説明がされるが、頷首しえないものが残る。永田方正の礼文華近傍のイコリ岬の説明で、「Ikori suma 高岩 アプタ土人『高き』を『イコリ』と云ふ」3)が気にかかる。標高では兎も角、海岸線から屹立しているぼんず山は、ごく沿岸の海上からならば相当高く見えるそうだ。だが、イコリで「高い」という意味を書いているアイヌ語辞典は見ない。

 アイヌ語 matu は「曲がっている所」を意味する4)という。地名アイヌ語小辞典には ma-tu で「波打際の屈曲した所;うらわ(浦曲)」とある。市役所のある室蘭中心部より先の室蘭半島で、ぼんず山は南西側に一番膨らんだ所に位置する。室蘭半島の海岸線が曲がる所を matu-ik oro[曲がっている所の・関節・の所]と云ったのが訛ったのがマタイコリではなかったかと考えてみる。matu ik で、似た意味の言葉を重ねて成った地名ではなかったかと考える。

 或いは ut に対して utor が出てくるように、ik に対して ikor があって、matu ikoro[海岸線の曲がっている所・の関節の所]ということであったかとも考えてみる。

 但し、マタイコリのアクセントはタで、地名アイヌ語小辞典では ma-tu のアクセントが a にあるので、アクセントの位置が一致しなさそうである。語が続くとアクセントの場所が変わることがあるようだが、matu-ik oro matu ikoro でアクセントがtuの所に来ることがあるのかどうか、分からない。

参考文献
1)海軍水路部,海図「北洲南岸諸港」図幅,海軍水路部,1893.
2)知里真志保・山田秀三,室蘭・登別のアイヌ語地名,知里真志保を語る会・噴火湾社,2004.
3)永田方正,初版 北海道蝦夷語地名解,草風館,1984.
4)rayciskakur,松前の由来と金成マツユーカラのmatu<<アイヌ語 シベリア少数言語 古代日本語 樺太雑記.(2016年2月6日閲覧)
5)知里真志保,地名アイヌ語小辞典,北海道出版企画センター,1992.
6)知里真志保,アイヌ語入門,北海道出版企画センター,2004.
7)田村すず子,アイヌ語沙流方言辞典,草風館,1996.



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(2009年4月21日上梓 2016年2月6日加筆)