平内地区から見た破沙岳
破沙岳 (1259m)
はさだけ

 屋久島最南の、平内地区の岳参りの前岳。名前の由来はわからないが、何だか格好良い響きだ。見た目も格好良い。平内地区から眺めると白い南壁を見事にさらしている。稲藁の「はさ掛け」の様子に似ていることが由来だろうか。湯泊歩道入口からも白い姿がよく見える。どちらからも少し小ぶりなものの見事な鋭い独立峰に見えるが、地図をよく見ると、また山頂に立ってみると奥岳山塊のひとつの尾根上のコブに過ぎなくも感じる。七五岳の子分の様なイメージもなくもない。しかし、前岳の中では高い方だ。地元のガイドさんの助言に従って、蛇之口滝ハイキングコース(尾之間歩道)の終点から蛇之口滝を越えて沢登りで登り、下りは平内地区ではそこそこ破沙岳に登っているという噂を聞いたので、あまり知られていない岳参りの登山道を下りてみた。


★蛇之口滝から沢登りルート
参考時間・・・蛇之口滝-4:00-山頂(詰めを間違えなければ3時間程度か)地図はやや下

 蛇之口滝までは尾之間歩道の記事参照。滝に着いてもあわてて渓流足袋や渓流シューズに履き替えないで、蛇之口滝上部に巻き上がるまでは登山靴のままが良い。滝の左岸(右側)から巻く。滝壷の右脇に踏み跡のようなものがあり、それに従って登っていくが、次第に右に逸れて消えてしまうので、蛇之口滝の下から見えていた部分ほど登ったと感じたら左にヤブを漕いでナメ滝になっている蛇之口滝の上部に出る。滝の斜面の端の方は天気が良いとツルツルとよく乾いていて、乾いたフェルト底に履き替えるとフリクションが足りなくて滑ってしまい危険である。スパイク足袋だと正長石のデコボコにスパイクが上手い具合に収まって意外と滑らない。もしかしたら、岩が乾いているのなら登山靴のまま滝の頭まで登ってしまう方がフェルト底に履き替えるより良いのかもしれない。この滝を登るので有頂天になって転落した死亡事故も起きているという話だ。慎重に登りたい。

蛇之口滝
蛇之口滝上部
鈴川左股から破沙岳への地図

 蛇之口滝を登り切ってしまうと、後は何もない沢であるが、巨岩慣れしていない身にはものめづらしい経験でなかなか進まない。岩は屋久島らしくそれなりに大きいが、傾斜が緩いこともあって困るような淵や飛び越えられない岩の間などはなく、何とかなる。

 750mから900mにかけては右岸の森の中が平坦で歩き易い。北海道と違い、水路以外は根曲がり竹のヤブと言うことはない。850mで鈴岳に向う沢を右に分ける点は水量が0.8:1ほどで顕著な二股なのでわかりやすい。

 二股を過ぎると水量が減ることもあり、沢の中を歩行するのは随分楽になる。森の中には倒木や打ち捨てられた切り株が散乱するようになり、逆に歩きにくくなる。時折、いつのものとも知れぬ古い空き缶が現れ、こんな所でも屋久杉の近代の伐採作業が行われていたのだろうと思う。

 次の二股は左から1:2で左に入るのが正しいが、左に入るとまもなく水流が消えてしまったこともあり、不安になって結局この分岐を見送ってしまった。地元のガイドさんの助言ではこの辺りから前方に四つの岩峰が見えるとのことであったが、木々に覆われて見えなかった。もう少し登れば見えたのだろうか。その次の二股で左に入り、平行する沢で遠回りすることになった(図中黄緑の点線)。四つの岩峰が見えたら一番左を目指すのが良いそうだ。ほぼ西に一直線に進むように沢を選びたい。

 言い訳になるが、この時手に入れて間もなかったハンディGPSは破沙岳ピークの方向として北西方を指していた。それも西方へ進む不安要因になっていた。沢型がなくなるほどまで登ったらいきなり矢印の向きが変わって南西方向になったのは、そこまで登るまでに薄々感づいてはいたが、山の中で十分に衛星を捉えられないとこんなことになるのだと勉強した思いがした。次の二股を左に入った辺りから急に斜度が加わり、ツルリとした滝がいくつか現れるが、ヤブがらみでいくらでも巻きようがある。おそらく最短のルートでも沢の中身に大差はないだろう。

 稜線に出るのは破沙岳の東の鞍部である。登りきった所は倒木で開けたギャップになっている。私が登ってしまった稜線だと、この鞍部に下りるのに結構な急斜面を下りることになる。


山頂から大崎川対岸の白骨林
台風によって巻き上げられた
海水による塩害だという

 最後、稜線伝いに登っていくと、竹やぶを過ぎて右から平内からの登山道が合流し(多分いつ合流したのかわからない)、草木のはげちょびたような岩場を登るとすぐに山頂だ。

 この日は標高1300m以上にガスが出ていて楽しみにしていた七五岳や割石岳は見ることが出来なかったが、南斜面には白骨状の巨木が多く見えた。崖崩れの跡も多く見える。湯川源流域の露岩も迫力があった。平内や小島の集落はすぐ真下に見え、海が光っていた。

 山頂の南西の尾根は大きな露岩が多く、いかにも危険そうだがその方向に来し方より明瞭な刈り分けが見られ、はじめはこれが登山道かと思い入ってみたが、すぐ下で大きな岩陰に一品宝珠大権現を祭った祠があり、行き止まりであった。


平内・岳参り大崎川登山道大崎川から破沙岳の地図

アプローチ・・・県道バス停「大崎橋」下車。山側に向け300mほど行くと少し広い道(農免道路)にあたるので左折してまもなく(上流の)大崎橋に着く。橋を渡ってすぐのコンクリの山への道が「大崎川林道(正式名は山口林道)」で、途中荒れている所もあるが標高400mの地図上の終点間近まで何とか車で入れそうだ(このページの下の方にアプローチの地図あり)。
参考時間・・・破沙岳-1:20-作業道跡終点(水場)-0:20-林道終点-0:30-上流の大崎橋

 このコースは現在も岳参りで使われているようであるが、普段の登山者は少ないと考えられ、ほとんど踏み跡の痕跡も見つからないような斜面の遠くの木にポツンと小さな目印テープだけが見えたりするような場所もある。こういう箇所は暗くなった時ばかりでなく、ガスが出ただけでもトレースを追うのは不可能になると思われ、少しの悪天でも入らないのが賢明だと思う。下りに使ったので下りながら紹介する。また、一旦尾根に取り付くと山頂まで水場がないので、最終水場で十分汲むべきである。

 山頂から北東へ下っていく。草木の禿げちょびた岩場を過ぎ、その下の竹林を右寄りからくぐって左側に回りこむように登山道は伸びているがわかりにくい。この後、破沙岳の北斜面を下がりながら巻いていく。目印のテープは赤と白のビニールテープがあるが、木の枝や細い幹にぐるっと巻いてあって、ヒラヒラとぶら下がってないので見つけづらい。

 二ヶ所、ロープの下がっている箇所が北斜面上で現れた。目印テープはあってもそれ以外の人跡が殆ど無いので、少なくともロープにつかまっている間は道から外れていないと言う安堵感がある。

 ロープのやや下で急降下する箇所があり、この部分は他と比べても人跡が薄く、注意を要する。北斜面であることはこの辺りを全行程中最も暗くし、落ちたり転んだりと言う危険は他と比べて高いということはないが、道を見失う危険は最も高そうだ。下りすぎると戻れなくなりそうであり、道を見失ったと思ったらとにかく左上の方へ登って、鞍部からやり直すのが良いと思われる。


土壌と木々が滑落
この岩の上のヤブを踏んでいく

 西斜面に入ると一時、木の間越しに破沙岳の蛾々たる山頂付近を望むことが出来る。その後、木々や土壌が下の方に滑り落ちてしまった露岩の上の端に出る。目の前には短いロープが一本垂れ下がっているが、下は上に凸な岩肌だけがありロープにつかまってどこへ行けと言うのか?という風情だが、道はこの斜面の崩壊で上のヤブの中に付け替えられたらしい。この辺りは白骨樹が多い。もしかしたらヤクタネゴヨウかも知れなかったが、道を探すのに一生懸命で落ち葉が五本に分かれているかまでは見ていられなかった。

 その後は時折尾根の南側を絡みながらも尾根上を歩いていく。道は相変わらずわかりにくく、目印テープも一部おかしな所に付けてあることもあって、気が抜けない。時折破沙岳の山頂も望めるが、やはり木の間越しでスッキリとはいかない。

 標高700m付近から尾根の南東側は杉の植林になる。尾根上はちょうど雑林と植林の境で日当たりがよく、イチゴやサルトリイバラのツルのトゲが多くて、痛いし服のほつれが多くなる。また、日当たりが良いせいで、低木も多く繁茂していてヤブを手でよけながら歩く。

 標高500m付近で右下から沢の音が近づいてくると尾根の末端まで到着。水音の聞えていた沢は伏流している部分を横断するが、前後を適当に探せば水が得られる。登ってくる場合はここが最終水場となる。大崎林道より下の地図

 ここからは作業道跡だ。コンクリの道が雨裂などですっかり破壊されている。雨と水流だけでこんなにコンクリが壊れてしまうものかとびっくりだ。途中、橋で大崎川本流を左岸に渡り尚も歩いていくと、半分崩れて恐ろしくて渡れない橋があるので、川原に下り下流側から飛び石で川を渡って再び道に戻ればまもなく、地図上の林道の終点だ。林道は部分的に荒れていて、落枝もそのままになっていたりするが、自動車でも走れそうだ。終点付近に駐車スペースもあったと思う。右手にカヤトを見るとまもなく大崎橋のたもとに下山する。大崎橋側から林道を見ると「ホントにこの道が林道か?」と疑いたくなるような農道のようなコンクリの道が大崎川(山口)林道だ。

 平内では、宮之浦岳と破沙岳と権現堂に岳参りしていたという。権現堂が地図上のどの岳なのか知りたい。下屋久村郷土史の平内・湯泊の章に出てくる、「ハサ岳ノ東ニ聳ユル高山」である、「権現岳」は権現堂と同じピークだろうか。破沙岳南東約840mの1160m標高点のピークか。


★聞き取り調査

  • 千尋の滝で出会った若いガイドさん談「大崎川林道の奥から2001年に刈り分けがつけられましたが迷いやすいです。沢登りをする人なら尾之間歩道の蛇ノ口滝の左岸を巻いた後はゴーロで4つ岩峰が見えますから一番左を目指して登った方がわかりやすいでしょう。」(2002年10月)

山と高原地図にある
破沙岳の東の鈴川右岸の
「鳥形岩壁」は
これのことだと思うが…難しい。
(割石岳付近から)

七五岳登山口から見た
破沙岳

参考文献
屋久町郷土誌編さん委員会,屋久町郷土誌 第1巻 村落誌 上,屋久町教育委員会,1993.
山本秀雄,文献紹介15 下屋久村郷土史,pp69-79,15,生命の島,屋久島産業文化研究所,1989.
太田五雄,屋久島 宮之浦岳(山と高原地図)昭文社,(2004).



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(2003年12月16日上梓 2004年頃「鳥形岩壁」の写真を追加)