松峯大橋から見た明星岳

登山道地図

明星岳(651m)

 屋久島第二の街、安房の前岳。地形図や地元の山岳系の人の間では明星岳と言う呼び名で合意されているようだ1)が、山をあまり登らない地元の人の間では巳岳(みのだけ)・三野岳・矢本岳・ボツダケ2)等の様々な名で呼ぶこともあるようだ。ボツダケは矢本岳の訛音か。

 屋久島の外周は花崗岩の熱で焼きなましを受けた熊毛層群のホルンフェルスから成るが、そのホルンフェルスの名の元となったHORN状の山で、当然ホルンフェルスから成る。(ホルンフェルス分布が載っている地図;期間限定っぽい)登山ガイド地図にも国土地理院地図にも載ってないが立派な登山道がある。杉の植林が山頂直下まで迫っているが、屋久島一大きいと言われるヒメシャラの巨木がある。



広域地図

歩行日・・・2004年4月26日
五万図・・・「屋久島東南部」、「屋久島東北部」
参考時間・・・鍋山林道ゲート-0:20(自転車)-登山口-1:20-山頂
アプローチ・・・安房川左岸に沿う鍋山林道から登山道がある。標高200m付近のゲートまで車で入れる。ゲート周辺に車を停めるスペースはある。
山名考


 登山口までは「森の陽だまり」のレンタサイクルで行った。安房市街から一周道路を宮之浦方面にいくと、合同庁舎のすぐ手前のやや細い道を山側に入ると鍋山林道入り口までほぼ一直線で、一番高くなった所で左折すると鍋山林道である。林道の名を示す標識などはない。鍋山林道下部は急登で自転車を押しながら登った。

 林道ゲートを過ぎると道はトラバース状になり漕ぎやすい。ゲートから約3kmでプレハブの林業関係の小屋があり、簡易水道がある。プレハブ小屋から約200mで右に階段状の明星岳登山口がある。標識、テープの類はないが車を停められるよう道幅が少し広がっている。更に150mほどいくと明星岳沢の立派な鍋山橋があるので行き過ぎてしまってもわかるだろう。

 見えている階段を登ると平坦な道が続いている。どうもこの道は森林軌道(トロッコ)の支線跡のようだ。明星岳沢に沿ってしばし緩い道を登っていく。途中、水道管が道に沿ってずっとある。弁の4つある水道施設を過ぎて、石の敷かれた枯れ沢を渡り、道が左に下がるように不明瞭になると、そこから右の樹林に入って山道が始まる。目印のテープが下がっていた。


登山口の階段

水道管と道

水道施設

 山道に入ってもしばらくは平坦だ。周りの木々は細い。一度伐られているのだろう。ぐるっと回り込んできたらしいトロッコの支線跡と合流すると坂道になる。目印のテープは多い。

 だいぶ高くなると沢地形を横断するが既に水はない。足元の岩は下のほうでは白くザラザラした花崗岩だが、次第に黒く滑らかなホルンフェルスに入れ替わっていくようになる。ホルンフェルスでも特に滑りやすいということはない。

 次第に東側の稜線が近付くが中々辿り着かない。途中、二本の大きなヒメシャラが現れるがこれは「巨木」ではない。それなりに大きくて立派であるけれど、肌が滑らかだ。 

 稜線間近になって、「ヒメシャラの巨木」が現れる。さすがに屋久杉に比べれば太さはないが、ゴツゴツとしたコブだらけの貫禄ある姿である。

 稜線に上がると傾斜は緩くなる。花崗岩も全く見当たらなくなる。緩くなった坂を登っていくと右手に間伐をやりたてのような杉の植林が見られる。「ここまで登ってきたのに植林かい?」というガッカリ感があるが仕方ない。確かにヤクスギランドや縄文杉荒川登山口まで行く途中の、安房川の対岸の林道からはすっかり植林された明星岳が見えるのだ。


ヒメシャラの巨木

 明星岳の最高点は西面をトラバースで通り、道は山頂を通らない。最高点の直下には一応落ち葉の乱れた踏み跡のようなものがあるが殆どヤブで、最高点もヤブである。景色はヤブながら東側の海岸線がよく見える。

 トラバースも後半になると切り立った岩場になり、ロープをつかんでへつるように行く。岩場とは言っても下はすぐ深く濃いヤブなので落ちても怪我はしないだろうが。トラバースが終わると、一旦大きく下り、最高点山頂と岳参り山頂の鞍部を通過し、最後に長いロープをつかんで急斜面を登ると岳参り山頂に達する。

 岳参り山頂は南北に広く、北の端には立派なごく近年に建てられたような御影石造りの祠がある。新しい石造りの祠の中に山川石の黄色い昔ながらの石碑がある。祠の前には玉砂利まで敷いてある。南側は安房の町がよく見える。晴れていれば太忠岳天柱石なども見えるのだろうが、この日は奥岳方面はガスだった。また北側を見た場合、ここより300mほど高い三野岳(船行前岳)が非常に立派で、いくらとんがっているとは言っても、ここの明星岳では少々小さいなあと言う感じがした。

 山頂ではスミレ(ヤクシマミヤマスミレ?)とサクラツツジが沢山咲いていた。


★山名考

 冒頭のように明星岳の名は地元において確定的とは言いにくい状況と思われる。登山界だけ1)でも統一しておく意義は認めるが、明星岳・矢本岳・みのだけ・船行前岳の名がほぼ同じ山塊に付けられてきたようだ。近代以降、明星岳と三野岳の振り方が今と反対であった期間が長かったようだ。巳の方角とはほぼ南南東で、安房の岳参りの祠があり、安房から北西の方向にあるこの山に「巳の方角にある山」と言う命名理由は考えにくい。明星岳・船行前岳(三野岳)を水源とする明星岳沢の下流側の対岸(右岸)に「美濃沢」があり、三野岳(巳岳)の名はこの安房川の支流の合流点付近の地名から名づけられたような印象も受ける。

 ミノとは、水道施設の存在から「水源の尾根」としてのミノヲ(水の峰)或いはミナヲ(水な峰)の約ではないかと考える。船行前岳山頂には「三野」の字も彫られた祠がある1)とのことなので、現行の船行前岳の位置を「巳岳」とし三野岳とすることでピークを厳密に規定する現代的には良いのだろう。明星岳も三野岳の一角として「水の尾」/「水な尾」であったのではないかと考える。「明星」の名も、水つ峰(ミツヲ)或いは水尾(ミズヲ)の転で、明星岳沢のある、水のある山という意味で、みのだけ(水の峰岳)とほぼ同義であったのではないかと考えてみる。こう考えると三野岳と明星岳の名の区別が、ほぼ同義であると言うことで曖昧であったことに説明が付く。「明星」の付く山の名は屋久島以外にも各所にあるので水と関係していないか調べてみたい。例えば奈良県の大峰山脈の明星ヶ岳は、弥山川の水源として「水の元(本)」とも呼ばれる4)という。

 美濃沢の名は、三野岳の名とは無関係な、中山の乗越があるという言う意味での嶺尾(ミネヲ)の沢の約かと考えてみる。烏帽子岳と七五岳の間の三納小屋跡の三納(みの)もこれだろう。

 矢本岳は昭文社山と高原地図では明星岳の南の稜線上のコブのような扱いだが、あまり名前をつけて呼ぶ必要のあるコブとも思えないような気もする。ボツダケの名は矢本岳の最初の「や」が落ちて、m とb の相通で「も」が「ぼ」になり、鹿児島方言で「と」が無声化して「つ」となった訛音と思われる。「や」は「岩」の約かと思われるが、岩の本とはどこなのかはよく分からない。

参考文献
1)太田五雄,屋久島の山岳,八重岳書房,1993.
2)礒邉自適,樹木霊 縄文杉登山(日録抜粋4),季刊生命の島,65,屋久島総合文化研究所 有限会社生命の島,2003.
3)楠原佑介・溝手理太郎,地名用語語源辞典,東京堂出版,1983.
4)森下惠介,奥駈道の現地踏査,pp3-30,大峰山岳信仰遺跡の調査研究,奈良山岳遺跡研究会,由良大和古代文化研究協会,2003.



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(2004年5月3日上梓)