山の本

感想文のある本
江戸明治の百名山を行く -登山の先駆者 松浦武四郎-・・渡辺隆/北海道出版企画センター
山登りを中心に見た松浦武四郎の伝記。史料に基づき虚説を排した好著。時代背景もよく分かる。メインは北海道の山である。一部のアイヌ語解釈と晩年に登った西日本の山に関しては比定など多少怪しい所がある。西別岳・摩周岳のように後に公開された資料によって更に登っていないことが明らかになった山もある。
沢登り読本・・茂木完治、手嶋亨/東京新聞出版局
 沢登りの入門には良いと思われる。私は全国の有名どころの沢を調べるために図書館から借りてきただけだが、その中ではやさしくて良いと思った。具体的な新しい専門用具の使い方までは言及していないが、基本的なロープなどの道具を兼用する技術については記述されている。東京新聞社発行なのに全体的に関西のノリな本である。
熱汗山脈・・高橋敬一/随想社
 いつか行きたい沖縄八重山諸島の山の紀行文。苦労ばかり書いてあるような気もするが、他にこの地域の山の本などないので読んでいる。山はもっと楽しいものだろ、と言いたい箇所もあるが「西表島行きたい」という自分の望みの前に何も言えない。苦労してもこの本をガイドに道の無い八重山のヤブを漕いでみたい。
大峯の山と谷・・小島誠孝/山と渓谷社
 「ガイドエッセイ」とのことで情報としてより文学としての面が強い印象を受けた。北海道の山と違い、山と生活が絡み合った本州の山の歴史の深さが感じられる。クライミングなどを含めて大峰の山の追体験といったところ。四季を通じての登山対象としての多面的な大峰山の紹介。
超火山[槍・穂高]・・・原山智・山本明/山と渓谷社
 「超」が付くと何となく安っぽい。内容は北アルプスの主たる山々の出自を描いていて、そのほとんどが火山のなれの果てであるということを証明するように対話形式で語られていく。あやふやな所は原山氏が語らなかったりするなど学問的に正しく記述しようとしている姿勢が評価できる。山の出来方が高校地理で教わったことから進化していないであろう大多数の社会人には目からウロコだろうけれど、北アルプスに何度も出掛けたことのある人でないとついていけない部分もあったかもしれない。私もまだ自分で行ったことのない高天原周辺の章には理解できないところが残った。
(2003/8/8)
霊山と日本人・・・宮家準/NHKブックス
 集めた情報の羅列にとどまり、本を読んでいるというよりは表を見ているような気がした。何か、集めた情報から導き出して書いて欲しかった。データベース的に使うべきか。帯にある「自然への回帰と魂の再生」というには無理がある。大峰奥駆の体験記などをもっと詳しく書いてあったら良かったのにと感じた。
(2004/5/10)
秘境の山旅新装版・・・大内尚樹編/白山書房/2000.11.10/\1600
 秘境を活字化してしまうことで、そこが秘境でなくなってしまうジレンマは編者も意識していて、あとがきに記されてはある。はじめは本書に寄稿している、ある1人を知るために購入し、他の人が書いた他の章は本州の全く知らないエリアの山ばかりで興味も湧かずそのまま積読していたが、HPを持ち、下手なりに書く側になると、それぞれの人のその山に対する思いが伝わってくるようになった。帯にある「現代の秘境とは・・・冷暖房完備の街から灼熱と極寒、時には死臭さえ漂う世界・・・(略)」というのは少し内容と違う。この帯の文のような苦労話が書かれているのではという先入観があったが、どの文も愚痴は少なく、理性的な範囲での感動の表現にとどまっている上に、その山への愛に溢れた優しい書き方の文が多い。その山域について全く知らない者が読んでも「ああ」という安堵感の残る文章ばかりで悪いものではない。攻撃的な山登りをしている人が新たな征服対象を探す目的で買ってしまうと不満が残るであろう。そういう意味で「書くことでそこが秘境でなくなる」というジレンマは、本としては内蔵していないと言えると思う。挙げられた全ての山でそうとは言い切れないけど、どの山もこれからもこの本が書かれた時の程度の静けさを保てるように思う。口を悪く指摘すれば、もう秘境が日本にないからジレンマたりえなかったという見方も出来る。この辺は「秘境の実情」の理解の度合いによって大きく考えが分かれてしまうところだろう。この本の美学は、こうした判断の分かれる所に重心があり、現在の登山ブームではそれほど教科書になりえないのではなかろうか。そしてそれが故に静けさは保てそうな気がするのである。北海道で「秘境と呼ぶ人がいるかもしれないような山」を主に登っている自分としては、これらの山はそれほど秘境でないのかもしれないな、という印象は読み始めてすぐに感じた。
(2004/8/25)

日本(千渋山之内)百渋山
葉月山の会創立40周年記念誌別冊・・・樋口一郎編著/自費出版/2004.3.1/\2000
 自信の無さに溢れた書物である。後から題名に取って付けられた「千渋山之内」の文字、発行から数ヶ月しか経っていないのに6つも出しているコリジェンダム、東北日本に偏っていることの作者の低姿勢ぶり、自分で決めて出版したのに既に百渋山の未来の姿の予想、替え歌の山の歌、どれもとっても笑える一冊である。百渋山選定の試み自体には白山書房の「山の本」に、既に選ばれていた数山とともに紹介された何年も前の記事以来注目していた。百と区切ってタイトルに入れたのも深田百名山のアンチテーゼとする都合上、百と入れたまでであって理念自体は悪くないので百にこだわらず、コリジェンダムなんて出さなくても良かったのに、と感じた。自分の山の方向もこの本の「渋い山」という題名の与えるイメージにかなり影響を受けてきた。自分がホームページを書いてきた背骨にはまだ発行されていないこの本の影が常にあった。実際に発行されてみると、意外に大きかったエリアの偏りや北海道の虚像の原始への憧れなどで未消化というか、まだまだ発展途上な印象でツッコミ甲斐があるというものだ。5年おきぐらいに増補改訂版を期待します。
(2004/9/7)

世界の山やま地理9月,10月号増刊・・・岩田修二・小疇尚・小野有五編/古今書院/1995.9.2,1995.10.31/各\2800
 世界の山を自然学的に紹介するシリーズ。9月増刊がアジア・アフリカ・オセアニア編、10月増刊がヨーロッパ・アメリカ・両極編。ヒマラヤやアルプスのような有名な山岳に関しては一通りの紹介になっているが、イランのザクロス山脈やエルブールズ山脈などは概説でチラッと紹介されるだけで、写真もないのは、最高峰の日本語表記すら定まっていない山域ではあるが頼りない。南米のギニア高地やアフリカのエチオピア高原、ドラケンスバーグ山脈も全く出て来ないし、アホガル山地なども1,2枚の写真だけでは寂しい。逆にイリアンジャヤの山のように標高もはっきりわからず、天候が安定しない為まだ好条件な写真がないというような記述には、まだ地球上に本当の探検の必要な場所があるという意味でホッとさせられる。2冊それぞれ160ページほどだが、5分冊くらいでもう少し詳しく読みたかった。実際に写真もないような地域は仕方ないのですけれど。
(2005/1/21)



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