森林に関する本


森はよみがえる 都市林創造の試み
石城謙吉/講談社現代新書/¥700/1994.9.20

 北海道大学苫小牧演習林の林長の著。営林と言う営為がどのように明治以降続けられ、どのような問題点があり、どういうことを演習林として試しているかが分かる。日本の森を歩いていて「なんか感じ悪くて何がしたいのかよく分からない・もうちょっとやりようがあるのではないか」と感じてきたことにも、それなりに切実な理由があったことが分かる。でもそのようなやりようが単純に経営としての厳しさだけを理由に認められる時代でもなくなってきたのも確かなような気がしている。そういう点を踏まえて、都市に近い林で様々な試行を行ってきて、一定の成功を収めたと言えそうな著者の仕事に強く感謝したい。まだ研究機関の演習林でない森で、この本に書かれたような試みを広げるにはまだ沢山の障害があるのであろうが、試みを試しにでも取り入れる程度の余裕がある日本の森林と林業従事者の世界であって欲しい、なって欲しいと願う。まずは一度、苫小牧演習林に行って実際の地を見てこようと思った。
(2009年6月)

同じ著者の
似た内容の
最新版らしい

森林への招待
西口親雄/八坂書房/¥1748/1996.3.25

 森林に対する様々な近付き方の紹介となるような文章。いろいろな近付き方・興味の持ち始め方がありますよ、といった感じ。それでも森林の維持者というよりは木材の生産者的な立ち位置にずいぶんいるなという印象は受ける。しかしこれだけトッツキ情報を与えられて有り難くない訳がない。この本のような多少年代の古い本でも、まだ十分登山者の知識として広がっていない・誤った固定観念のままのことは多数ある。いろいろ盛り込まれ過ぎていて、資料として使うにも終始が付きにくい感じもするが、参考文献の一覧も付いていて、この本から更に自分で進めることも出来るし、気が向いたた時にパラパラと一章だけ読んでみると言うような読み方も出来る。少しずつ役割を終えていく本であろうけど、いい本だ。
(2009年6月)

森の文化史
只木良也/講談社学術文庫/¥960/2004.6.10

 前半は比較的どこでも見かける森林についての解説書だが、後半で目からウロコの比較例を次々出して驚かされた。前半の山場は奈良時代頃の日本の森林の利用され具合。東大寺の大仏殿に使われた材木の変遷が映画を見るよう。東大寺の大仏殿の木材は創建当時ですら奈良近郊に既に適当な木材がなく琵琶湖沿岸から運ばれ、江戸時代宝永年間の復興時は遠く霧島山の麓から運ばれたことが記してある。静岡県の登呂遺跡を例に、縄文時代に既に人間の影響で日本の植生が本来の極相から大きく変わっていたというのも興味深い。
 後半に出てくる我々の森林認識を覆す例、例え現在地球上にある森林の2/3を燃やし尽くしてしまったとしても大気中の酸素の量にはほとんど影響がないという(何で全部燃やすことにしなかったんだっけな?)。
 工業用地や高速道路沿いに木を植えて空気浄化を期待してくれるなという木々に対する愛も感じられる。いろいろとわかりやすい数値の例を示された後での「数字に表現できないところにこそ、森林の本当の存在価値がある」の表明にはうなづかされるものがある。都市環境が悪化したから森林が必要なのではない。都市環境に関わらず、人間には本来森林が必要なのだ。例え人工林・街路樹でも大事にしていきたいという気持ちを新たにした。
(2004年8月)




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