桧塚(1402.0m)・桧塚奥峰(1420m)
蓮川 ヌタハラ谷

桧塚の位置の地図
蓮ダムからヌタハラ谷辺りの地図

 桧塚と桧塚奥峰は、少しチェーンソーの音がしていたけれど三重県一の静寂境だそうな。山の上部にはブナの純林が広がり、山頂一帯は芝生を敷き詰めた中にブナの巨木が点在する、ハイキングの為のような景色の広がる所である。楽しく登れる滝はそれほど多くないが贅沢は言わない。しかし山渓のアルペンガイドにあった誘い文句「遡行者を有頂天にさせる沢」1)はやや誇大広告だと思う。

 川崎実(2011)によると地形図(2004-11年現在)上の夫婦滝の記載は「不動滝」の誤りだ2)と言う。また、その地形図の影響からか長らく不動滝とされ1)ていた、地形図には記載されていない不動滝とされることの多かった上流の4-50m滝には松阪山岳会の記録に「奥峰滝」と言う名があった2)と言う。雑誌「山と渓谷」1966年8月号(通巻332号)の松阪山岳会による奥香肌渓谷の案内3)では遡行図付きで上記の通り、地形図上の夫婦滝が不動滝(F16)、4-50m滝が奥峰滝(F30)となっている。大阪わらじの会の「台高山脈の谷(上)」では1967年の記録で三段からなる地形図上の夫婦滝の上段に「不動滝」の名が振られていた4)。また、本来の夫婦滝は少し下流の地形図には無い二条の滝(F8)ではないかという。松阪山岳会の記録と言うのは1964年の松阪山岳会による別冊台高の奥香肌渓谷踏査報告書のことで、奥峰滝の名は1962年に命名5)された桧塚奥峰に因むものかと思われるが奥香肌渓谷踏査報告書を読む機会を得ていない。奥香肌渓谷踏査報告書を確認していないが山と渓谷1966年8月号の松阪山岳会の記事に川崎実(2011)の説を正当と考え、不動滝などの名に関わる箇所を訂正して加筆しておく。滝番号は同記事3)に拠る。


 バスを下車した後、行きも帰りも10kmも歩くのは嫌だったのでレンタサイクルを用意した。大阪起点で出かけたので近鉄上本町駅にレンタサイクルを配達してくれる「うえまち貸し自転車」にお願いして、小型折り畳み自転車を近鉄電車・奈良交通バスに持ち込み、榛原駅でバスに乗り換えて北部台高山脈の奈良側の入口になる杉谷BSまで輪行し、その自転車で国道166号線の高見トンネルを越え、木梶地区から栃谷・加杖坂峠を経由して蓮ダムに近道してヌタハラ谷出合まで走った。桧塚だけでなく池木屋山への縦走を考えていたので2泊3日でレンタカーにすると1日遊ばせておくお金がもったいないが、自転車なら1日1000円程度なのでそれほど財布も痛まない。大阪から松阪を経由して向うと、80kmあまりの遠回りになる。帰りは高見トンネルへ登り返す気力がないので素直に三重交通バスで松阪へ。奈良交通は荷物料200円が別途必要。蓮川流域の道路沿いには不動尊が多く見られる。


★ヌタハラ谷出合--不動滝
参考時間(休憩込み)2:15

桧塚から池木屋山の地図 池木屋山登山口への林道入口付近のヤブに自転車を隠してヌタハラ谷出合を目指す。20万図にある蓮地区はもう誰も住んでいないようだ。幾つかの別荘と造林作業小屋があった。蓮地区から先は未舗装の千石谷林道になる。ゲート・チェーンの類はなかった。奥の平谷方面への林道を分けるとまもなく出合。ここまでウツギの花が非常に美しかった。

 出合から数百mは整地された作業道が左岸にある。水の少ない小沢で非常に暗い沢な印象で、早速入渓してみるが1,2分もしないうちに立派な深いゴルジュ滝が現れて、恐ろしいので引き返してゴルジュ部分は作業道で巻くことにする。作業道が右へ逸れていく所から川沿いの杣道に入って巻く。ゴルジュが終わるとすぐ沢に戻れる。

ヌタハラ谷の地図
ヌタハラ谷の地図

 ゴルジュより上は開けた普通のゴーロの沢。沢の周囲は全て杉の植林である。岩質がフェルト底で全く滑らない良い岩質だ。ゴルジュのすぐ上の右岸に湧き水があったので少し飲んでいく。

 ピンク色のナメ床があった。ナメとしてはごく短い距離でガタガタしているが、変わった色で印象深い。風呂垢を思い出したりした。ナメ床や小滝壷の瀞場の川底の岩には、山椒魚のオタマジャクシがうじゃうじゃと張り付いていて、踏まないように足の裏で軽く払ってから体重を移動させなければならない。それでもかなりつぶしてしまったのではないかと思う。

 その後はさしたる滝もなく不動滝に到着。下段だけしか見えず、それほど大きな滝と言うイメージではない。右からの大きなルンゼというか、谷地形を登って標高を上げて巻く。この谷地形は登るに従って急になっている。なるべく小さく巻きたいと思って左寄りに登っていったら次第に土付きになり、所々顔を出している岩が非常に脆くなって登りづらくなった。ずーっと上の天然林から植林に変わる境にはっきりした杣道があって、杣道に入ってしまえば移動は早いので、無理しないで谷地形の真ん中から登れば良かった…。

 杣道は谷地形のトラバースの先でやや不明瞭になり、一旦小さな谷を横断して更に登っていく。杉の落枝が登りづらい。

 尾根の鼻のような平坦地が登りきったところにあり、すぐ先に湧き水があったので、そこで幕営することにした。ヌタハラ谷を見下ろすと、かすかに不動滝上段の巨大な姿が垣間見える。



不動滝上段

★不動滝--桧塚
参考時間(休憩込み)2:25

 翌朝は、まず少し下りて不動滝を見物してきた。降りるほどに傾斜がきつくなり、最後はかなりの高さで滝壷まで落ちている。大きくて立派な滝だった。昨晩からお世話になった湧き水の流れも細いが高い滝になっている。

 幕営地から尾根沿いに少し上がると5mほど岩登りな所があるがしっかりした岩で登りにくいことはない。小さな沢地形を横断してさらにもう一登り、植林の中をトラバース気味に登り、ようやく不動滝が巻き終わる。

 その先はわりと平坦で明るい沢だ。沢の周りはほとんど天然林になり、朝日がきらめいて美しい。高いガレや階段状の登って楽しい小滝が幾つか。デンと大きな巨岩が1つ。登って楽しい所にはチッピングが目立つ。

 もう少し登って楽しい小滝が続かないかな、と思っているうちに奥峰滝に着いた。滝壷には朝日で虹が掛かっていた。滝壷の周囲の苔とともにいい雰囲気を醸し出していた。


奥峰滝
 滝を背にイノシシの足跡の多い谷地形を登ると不動滝同様に上部を杣道が横切っている。但し、不動滝ほどは高くなく、すぐ巻き終わる。奥峰滝のすぐ上では杣道と言うには立派過ぎるほどの道幅がある。元々、杣道の中でも木馬(キンマ)道だったのではないだろうか。

 奥峰滝の上には小さなクネクネしたゴルジュがあったが、これは浅くて面白かった。チッピングもなされているが、巻くことも出来る。落ちたとしてもひざ程度の水深しかなさそうだが。また沢の中には針金(ワイヤーではない)が目立つようになる。沢を横断しているような針金も幾つかあり、くぐらなくてはならない。杣道のガードレールが浸食とともに沢の中に落ちてきたのだろう。少し探検気分がつぶれるものがある。

 針金の存在が示すように、まもなく左岸に植林小屋跡の少し高まった台地がある。目印や石碑などはない。沢の周囲は開けて広い。

 植林小屋跡を過ぎるとすぐに桧塚直登沢出合で、水量は3:1で左が本流。本流を登り桧塚奥峰に直登した場合、台高主稜方面に縦走するつもりだったので、ピークハンター的には桧塚へは往復してこなくてはならないのが面倒くさくて、右の桧塚直登沢に入ることにした。

 直登沢はアルペンガイドには6m、12m、5mの滝が記されているが、12mを越えると伏流になってしまい、斜面は非常に緩やかなので、もう水はないと早合点して登山靴に履き替えた。再び水は現れたがそれほど問題はなかった。結果的には直登沢出合から登山靴に履き替えても良かったほどだ。周囲はブナの純林となり、右手に稜線も見え始める。

 正面に岩壁が現れ右に逸れていくと、林床に小さな笹や芝が生えるようになり、ブナがややまばらになり、桧塚のやや東の稜線に上がった。途中に鹿の頭蓋骨が落ちていた。稜線には薄い踏み跡があった。

 直登沢は面白いと言うことはなかった。時間は十分あったのだから、アザミ滝などまだ見せ場のあった本流を行けばよかった…。

 松阪山岳会の1962年の記録5)を見ると現在、桧塚とされている1402.0mの三角点「蓮2」のある峰は当時山岳界では無名で、地元の造林業の千秋社で「千秋峯」と呼んでいた様である。桧塚と言う呼称は蓮側からは桧塚奥峰の北東200mほどの標高1400mの等高線が細く突き出した地点であり、北の青田側からは千秋峯(=三角点『蓮2』)の東尾根の塊を呼んだという。桧塚奥峰と言う呼称は、この記録の時に誕生したようである。

 アザミ滝は山と渓谷1966年8月号の松阪山岳会の記事と遡行図3)によると奥峰滝(F30)の下手の2段12mの滝(F28)だという。ネコ滝は更に下手の3段15m滝(F22)だという。更にコウセ滝という滝の名が奥峰滝より上流にあるようにしている資料が見られるが、不動滝のすぐ上の15m滝(F17)の名「コウセン滝」から来ているように思われる。コウセン滝は不動滝(F16)と共に巻くことになる。


桧塚から見た桧塚奥峰

桧塚奥峰から見た桧塚

★桧塚--桧塚奥峰--池木屋山--下山
参考時間(桧塚-0:15-桧塚奥峰)

 桧塚山頂はそれほど展望がよくないので先に進む。シロヤシオの花が多く咲いていた。広々とブナの疎林と芝生が広がり、山の上と言うのが不思議な気分だ。桧塚奥峰の山頂は、最高点は樹林の中だが20mほど南に行くと白骨樹と白い露岩の展望台があって、非常に眺めがよい。アルペンガイドには「ヒキウス平」とか「判官(ホウガン)平」と書いてあるが、地図に記載が無いのでどこを指すのか分からなかった。ヌタハラ谷の南側には赤みを帯びた浅く窪んだ芝生の広がりが見え、その窪み具合が挽き臼に例えられたヒキウス平だったようだ4)。ホウガン平は桧塚奥峰の西側一帯を指すようだ4)。赤みを帯びた芝生と白い露岩・・・何となく石灰岩地帯なのではないかと思う。遠方は靄っていたが、大峰山脈まではよく見えた。


ヒキウス平

桧塚奥峰山頂

 ここから先は「桧塚・桧塚奥峰・ヌタハラ谷」のタイトルとは関係ない続きなので箇条書きに・・・(後ろの時間は所要時間)「豊かな生態系のブナ林」とは聞くけれど、下草のほとんど生えてないブナの純林はバラエティーがなくて本当かな?と感じた。


笹ヶ峰山頂のブナ林

参考文献
1)吉岡章,蓮川ヌタハラ谷から桧塚奥峰,大峰・台高(アルペンガイド18),山と渓谷社,1994.
2)川崎実,秘瀑 台高山脈 珠玉の渓,山と渓谷社,2011.
3)松阪山岳会,奥香肌渓谷,pp74-78,332,山と渓谷,山と渓谷社,1966.
4)岩野和彦,ヌタハラ谷,台高山脈の谷(上),大阪わらじの会,大阪わらじの会,1976.
5)大西保夫,檜塚奥峯,pp12-13,7,会報,松阪山岳会,1962.



トップページへ

 資料室へ 
大手のエステ
(2004年6月21日上梓 2011年12月11日夫婦滝・不動滝・奥峰滝改)