大崩山の位置の地図
大崩山 (1643m)
おおくえやま

 九州本土にある花崗岩の山。古い時代の火山の残骸で大崩カルデラのなれの果て「コールドロン」(語源はカルデラと同じ)の内側の名残の山である。花崗岩はそのマグマの跡に入り込んできた。山頂付近は花崗岩ではなくホルンフェルスで、風化に強く下の花崗岩の蓋(ルーフ)になって浸食が遅れ、山頂となって残ったらしい。



祝子川温泉付近から
大崩山を見上げる
広域地図

小積ダキを仰いで
祝子川を渡る
(和久塚尾根分岐)

★登り ワク塚尾根

 祝子川温泉の先では大崩山の全景がよく見える。山頂は鈍重だが、山の側面の花崗岩がまるで岩の滝のように今も崩れ落ちつつあるのがよく見える。まさに「大きく崩れる山」だ。この大野原谷源頭付近の大きな露岩が「大崩ダキ」で、大崩山の名の興りであるという。一時間ほどリンドウやウメバチソウを見ながら林道を歩いていくと照葉樹で暗がりになった登山口に到着する(小縮尺の地図は下方)。

 登山口からは沢沿いだけど高巻きの道。ずっと乾いた感じで登りも地図で見るよりきつくて大変。

 今宵のお宿となる大崩山荘は鬱蒼とした照葉樹林の尾根と尾根にはさまれた窪地の中の高台にあって、新しい感じだがかなり薄暗い。水は祝子川本流に下りれば得られる。周りにはテントを張ったような空き地が多い。川原からは小積ダキと坊主尾根の岩体(としか言いようがない)を仰ぎ、垂直な岩の表面に途方もないスケールを感じる。

 大崩山荘から先は同じような祝子川の左岸を行くが、傾斜も少なくなり、それほど高いところを通らなくなり気持ちの良い道。川向こうに小積ダキが朝日に輝く頃には和久塚尾根分岐で、巨岩の祝子川を丸木橋で渡る。針金の手すりはあるが結構な高さがあった。渡り終わりが登りの梯子になっているのも慣れない人には恐いかも。川の様子は屋久島に似ている。しかしヤマメが多く泳いでいるのは屋久島とは異なる。

 しばらくは祝子川の枝沢(小積沢)沿いの照葉樹の暗い森の中だが、次第に斜面がきつくなってくる。岩の多く出た急な谷間を登り切ると、まず右手に乳房岩展望台。そして少し上の左手のわき道を登ると一番の見所「袖ダキ」で下ワク塚岩峰が素晴らしく望まれる。周囲の矮性化した針葉樹の類も味わい深い。

 ホレボレしてお茶を点てて長居したのち、登山道に戻り上を目指す。次は先ほど眺めた下ワク塚山頂へまたわき道に入って登ってみる。ここから見る中ワク塚も素晴らしい。尾根伝いにも行けそうなので中ワク塚までは尾根伝いに少々のヤブを漕いで踏み跡を登ってみた。別にどうということはありませんでした。中ワク塚からは今度は上ワク塚が良く見える。対岸の小積ダキは摩天楼の如き花崗岩の壁をなし「鳥も通わぬ」とはこういうところで使いたい比喩だなと感じる。上ワク塚へも尾根伝いに行けそうだったが今度は北斜面を巻く正規登山道で登ってみる。途中には金属の桟道がつけられた大きな湿ったスラブが何箇所かあり、全てには桟道がついておらず、少々恐かった。


袖ダキ付近から下ワク塚

下ワク塚から中ワク塚

中ワク塚から上ワク塚
地図

 一旦平坦になり、振り返ると左後方に上ワク塚が見えるので登りに行ってみる。今度はコーヒーを入れたりして、こんなことで寄り道ばっかりしているので非常に時間がかかった。北側から回り込んで上ワク塚の上に向かう辺りにはゴロゴロした丸っこい小岩がくたびれた旅人のように座っている。川もないこんな尾根上にどうして川原の様な小岩があるのか、当時は非常に不思議に感じたが、これらの岩は花崗岩がまだ地中にあるうちに割れてこの大きさになったものが、周りの風化されて砂になったものを風雨に取り除かれて、取り残されたものらしい。上ワク塚からは中ワク塚まで踏み跡が見下ろせて、もしかしたら巻いてくる登山道より早く登って来られるかもしれないと感じた。

 上ワク塚を下り、細くなった平坦な尾根を少し行くとリンドウの丘分岐で水を汲みに左のリンドウの丘へ向かう。細かくアップダウンのあるやや荒れて湿った道だった。おそらくこの道より上がホルンフェルスの蓋で花崗岩との境界をなしている線であろう。蓋(ルーフ)をされた花崗岩の深部が水の不透水層となってここで水が湧き出ているのではあるまいか。水場周辺の岩は黒っぽく目が細かく花崗岩ではなかった。ものの本に依るとルーフの境界は1300mとのことなので1450mのリンドウの丘の水場は少し高すぎる気もするが・・・?お立ち台状になったワク塚岩峰群の眺めの良いリンドウの丘とテン場の少し先に水場はあった。ほとんど凍っていて汲むのにずいぶん時間がかかった。ワク塚岩峰群には斜めの線がたくさん入っていた。

 山頂への最後の緩い登りは笹がかぶっていた。深田クラブ二百名山と言っても、百名山に比べたらずいぶん登山者も少ないのだろう。屋久島の奥岳の山々も隆起を始めた頃は大崩山のように熊毛層群ホルンフェルスのルーフがついていたのだろうか。

 最後には笹もスッキリして岩場の山頂風な「石塚」に到着。曇っていて、祖母山や傾山が北方に見えたがそれほど迫力はない。南方にドームのように見えていたのは尾鈴山だったのだろうか。もう一歩きで三角点のある本当の山頂に着くが、ヤブに囲まれて展望はあまり無いので石塚に戻って休憩した。寄り道が多くてガイドブック参考時間よりかなり時間がかかってしまった。


★下り 坊主尾根


坊主尾根の象岩を
小積ダキより見下ろす

変な岩

 坊主尾根への道も、上の方では笹がかぶっている。

 急坂を下りていくと小積ダキの山頂に立つ。意外や、広くて平らである。ここからはこれから降りる坊主尾根の岩棚に付けられた狭い道がよく見える。

 少し戻って南の谷へ一旦下り、坊主尾根に入る。まもなく針金の張られた岩棚の道だが(トラバースする岩を象岩というらしい)小積ダキから見下ろした印象ほどには恐くない。

 その後も梯子や木の幹をつかんでの急な下りだが、まあ下りなので楽しかった。

 下小積沢に下り立ち、祝子川を飛び石で渡り、大崩山荘前に戻り、振り返って来し道を仰ぐ。よく下りてきたものだ。

 再訪の機会があれば、今度は美しい沢として知られるワク塚尾根分岐より上流の祝子川を歩いてみたい。

参考文献
加藤数功・立石敏雄,九州の山(三訂版),しんつくし山岳会,1959.
足利武三,九州の山(アルペンガイド20),山と渓谷社,1999.



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(2004年2月9日上梓 2018年11月3日地図描き直し)