山名考

沖里河山

 山田秀三(1977)は現在(2016年)の沖里河山を松浦武四郎の記録した「エルンテツヘ」でないかとしている。「エルンテツヘ」は後の北海道実測切図で音江連山の名として振られたイルムケツプ、現在のイルムケップ山の名に通じるものと思われるがアイヌ語解はよく分からない。また、現在の音江山を松浦武四郎の記録した「イシヤンイトコ」としている。平隆一(2003)は現在の待合川が「イチャンエトコ」で、松浦武四郎の記した山の「イシヤンエトコ」はアイヌ語のican-etoko(待合川・の源流の山)と推定している。


オキリカの地図

 沖里河山は「沖里河の山」。沖里河はオキリカップ川の名に由来するが沖里河山にオキリカップ川・オキリカップ川支流川は水源としていない。「オキリカップ」は川の名で石狩川本流に接近した稲見山の所で石狩川に合流した、アイヌ語のo- kir ka o p[その尻・山・のかみ・にある・もの(川)]ではなかったかと考える。

 アイヌ語の位置名詞kaは、上は上でも「接触した上」を指すという。オキリカップ川は稲見山の真上を流れているわけではないので、稲見山の上手側の山裾で接しているとは言え「接触した上」とは言えないような気がした。言えないような気がしたので当初は多少音が違うが、o- kir -ke o p[その尻・山・の所・にある・もの]かと考えていた。だが、kaの対義語はpokだという。そのpokを用いた音江山の「音江」の元となったヲトイホク/ヲトエボケを考えると、kaは新しいアイヌ語辞典にある「接触した上」というだけではなく、知里真志保の地名アイヌ語小辞典にある「〜のかみ」の意味に近い水平的な上下である「接触した上手」と捉えても良いのではないかと考えるに至った。北海道実測切図にはオピラカオマと言った地名が見られる。川尻が崖の真上にあるのではなく、川尻が崖に接触して上手にあるものということだろう。川尻が崖の真上にあったら滝になってしまい、そういう場所にはオソウシと言ったアイヌ語地名が付けられる。地名アイヌ語小辞典にはcup ka[日・のかみ]で「東」、koy ka[浪・のかみ]で「東」の例が挙げられている。koy kaの「浪のかみ」の「浪」とは千島海流のうねりであることが山田秀三(1982)によって示されている。これらの「上」も単に「接触した上」とだけ提示されると垂直的な位置関係を考えて疑問符が付いてしまうような気がするが、水平的な「接触した上手」なら通じる。それとも辞典にある「接触した上」には元々水平的な上の意味も含まれていて、以上は単に考え過ぎであっただろうか。

 安政4年の松浦武四郎の記録にオキリカップ川を指して「ヲキリカ」とある。永田方正(1891)は「オ キリカ 川尻ナル鮭卵場」とし、「『オ』ハ川尻、『キリカ』ハ『イチヤン』ト同義ニテ掻キマゼル義鮭ノ沙ヲ掻キマゼテ産卵スル処樺戸監獄沖里河派出所ト表示シタル処」と説明し、「沖里河」に「オキリカ」とルビがあった。明治29(1896)年の北海道実測切図では現在(2016年)のオキリカップ川とオキリカップ川支流川の両方に「オキリカ」とある。

 山田秀三(1977)は深川市史で地名考を担当し詳細な検討を加えているが、オキリカについては永田方正(1891)の説をほぼ踏襲している。キリカは現代風に書くとkirkaであろうとされているが、kirkaで「掻き混ぜる」の意味をアイヌ語辞典で確認できない。

 ヲトイホクは推定tuyeの石狩川のすぐ下流側で合流している。オキリカップ川は稲見山のすぐ上流側で石狩川に合流している。ヲキリカのkaは「接触した上」ではなく「接触した上手」と訳した方が、ここの場合、水平的な上下を表現するのに相応しい気がするが、どうだろうか。

 地名アイヌ語小辞典のkaの項に「〜の岸、〜のほとり」と言う訳がある。「その尻・山・のほとり」も考えてみたが、近所のヲトイホクとの比較から「その尻・山・の接触して上手」と考えておく。

参考文献
山田秀三,アイヌ語地名の研究(山田秀三著作集)4,草風館,1983.
平隆一,松浦武四郎描画記録における空知のアイヌ語山名,pp7-24,6,アイヌ語地名研究,アイヌ語地名研究会・北海道出版企画センター(発売),2003.
田村すず子,アイヌ語沙流方言辞典,草風館,1996.
知里真志保,地名アイヌ語小辞典,北海道出版企画センター,1992.
山田秀三,アイヌ語地名の研究(山田秀三著作集)1,草風館,1982.
松浦武四郎,秋葉實,丁巳 東西蝦夷山川地理取調日誌 上,北海道出版企画センター,1982.
松浦武四郎,秋葉實,戊午 東西蝦夷山川地理取調日誌 上,北海道出版企画センター,1985.
永田方正,初版 北海道蝦夷語地名解,草風館,1984.
北海道庁地理課,北海道実測切図「上川」図幅,北海道庁,1896.
山田秀三,北海道の地名,北海道新聞社,1984.
知里真志保,アイヌ語入門,北海道出版企画センター,2004.



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(2016年2月7日上梓)