地図山名考

吉凶岳

 2021年現在で国土地理院の地形図に結梗川とある川の辺りの岳の意であろうか。結梗川の水源の岳という位置ではない。結梗川は南富良野村史には「キキヨウ沢」、「『きゝよう』の沢」とある。結梗川は桔梗川の誤字でないのか。山頂にある1915(大正4)年選点の三等三角点の名は「桔梗岳」で、1921(大正10)年発行の五万図から「吉凶岳」とあるようである。

 結梗川の本流であるポントナシベツ川への落ち口から結梗川の上流の西側を見ると、上部に露頭の多い険しい山が見える。この険しい山の尾根が見える所(川)ということの、kucikkew or崖の背すじ・の所(川)]の転が「きっきょう」/「ききょう」と考える。

 kucikkew をイタリックとしたのは辞典等に見ていないからで、臨時的にもどんどん作られるという名詞(kut)+名詞(ikkew)の合成名詞として想定した。ikkew に今のアイヌ語辞典で山の尾根を指す意味を見ないが、バチラーのアイヌ語辞典に、Ikkeu が「The backbone.」などとあり、その所属形と思われる IkkeweIkkewehe に「The backbone.」の他に「A ridge of mountains.」などとある。山の尾根筋も ikkew と呼ばれたことはあったのではないか。

参考文献
南富良野村,南富良野村史,南富良野村,1960.
田村すず子,アイヌ語,言語学大辞典 第1巻,亀井孝・河野六郎・千野栄一,三省堂,1988.
知里真志保,地名アイヌ語小辞典,北海道出版企画センター,1992.
知里真志保,アイヌ語入門,北海道出版企画センター,2004.
ジヨン・バチラー,アイヌ。英。和辞典及アイヌ語文典,教文,1905.
田村すず子,アイヌ語沙流方言辞典,草風館,1996.
中川裕,アイヌ語千歳方言辞典,草風館,1995.



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(2021年2月7日上梓)