有明山
神戸原から
有明山(2268.3m)
馬羅尾(松川)道

 松川村からのコース。享保6(1721)年の開山の時のルートだという。有明山北峰に奥社のある有明山社の表参道にあたるのか。

★有明山社〜林道終点

神戸原の地図1神戸原の地図2

 信濃松川駅から乳川を渡り、有明山社と鳥居奴(鳥奴)に寄って登山口へ向かった。鳥居奴(鳥奴とも)は有明山社の旧社地と伝えられ、神戸原扇状地の一角の巨石累々と積み上がるところで扇状地が形成された芦間川の氾濫の跡のようである。鳥居奴より下の扇状地が扇端にあたるようで水田が広がる。スズムシの里としても知られる。水田の間の道から有明山が見えるが、鳥居奴より上では神戸原の森の中に入るのであまり見えない。

 鳥居奴からもう少し南下して芦間川左岸の道を登った。この道はアスファルト舗装されている。森はアカマツ主体で、防火帯や作業道を横断して緩やかに登る。芦間川は見えなくても時折沢の音が聞こえる。途中に「穂高神社」と書かれた標柱が道ばたにあった。標高780mで川花見橋(かわけみばし)の北詰を横断して、神戸原扇状地の扇頂に至る。地形図には扇頂に記されている「天狗岩」は、突き当たりから「歴史の小径」と書かれた遊歩道に入ってすぐの巨岩で、現地の看板ではなぜか「天の岩戸」と書かれている。歴史の小径に入らずにアスレチック場を横目に神戸原の北側を登ってきた道と合流。里に背を向けた馬羅尾の山の神「信(のぶ)の宮」の石祠がある。信の宮の前の「馬羅尾高原案内図」では地図上の天狗岩が天の岩戸で、天狗岩は遊歩道「さるの小径」沿いにあるように描かれているが、さるの小径を辿っても案内図に描かれる天狗岩らしき岩を見かけなかった。

 里に背を向けた山の神は他でも見る。山の神は里から山に入ってすぐの所に居て、山の中に居る人達の方を見ていると言うことか。

 扇頂の一帯は公園になっていてアスレチック場の他にキャンプ場やグラウンドもあり、遊歩道が幾つもある。

 一回S字に登って雨引山尾根コース登山口と小祠のある小芦間谷の雨引山林道登山口を見送って大芦間谷の橋を渡るとアスファルト舗装が終わる。土の林道を緩やかに登ると終点が広くなって登山口である。


鳥居奴(鳥奴)

穂高神社々有地の標柱

川花見橋から芦間川を見る

天狗岩

信の宮

林道終点(登山口)

★林道終点〜尾根取付

馬羅尾道の地図 馬羅尾林道の終点が登山口である。林道終点は二股の横で丸木を4本まとめた橋と作業道と砂防ダムが見える。そのまま右岸を進む歩道もあったようだが、すぐ先で川に岸をえぐられて荒れている。丸木の橋を渡って大芦間谷本流の左岸の作業道を登る。5分ほどで作業道のS字カーブがあり、作業道をから沢の方に進むと登山口と標識がある。ここから5分ほどは作業道と登山道が平行している。この登山口で沢の右岸へ渡る丸木橋があり、渡ると右岸を上流へ5分ほどの作業道跡が延びている。「あがりこサワラ」の観察路である。「あがりこサワラ」は京都北山の台杉のような形の椹で、その手指のような樹形にされた目的も台杉と同じようである。有明山に登る場合はここで右岸に渡って立ち寄らなくても、もう少し上流の登山道沿いにも「あがりこサワラ」は見られる。

 5分ほど登ると右手を平行していた作業道が山手に逸れて離れる。登山道は古い山仕事の道のようで、歩道としては幅が広く石などは取り除かれ歩き易い坦々とした道である。標高1100m附近で最初の渡渉である。丸木橋が渡してあったが無くなることもあるようである。沢はやや荒れている雰囲気がある。渡った先に「親子糸滝入口」の標識がある。左に入ると親子糸滝へ向かう。まずベンチがあり、少し岩のゴロゴロした刈分道を進むと小沢の中に入り、5分も進むと親子糸滝がある。なかなか瀟洒な滝である。

 分岐に戻り、大芦間谷の右岸を登る。道沿いに「あがりこサワラ」が次々と現れる。1150mでまた渡渉。暗い樹林の中の道となる。1200m附近でまた渡渉。橋はないが次第に沢が小さく渡りやすくなってくるのを感じる。川石の白さがまぶしい。標高1250m附近の次の渡渉まで道は広く坦々とした歩き易い道である。標高1250mは大芦間谷の「大曲り」である。ここの渡渉で左岸に移ってから先の登山道は少し荒れた感じがするようになる。地形図記載の道は大曲りを通して右岸であるが実際は大曲りの前半から左岸に渡る。南斜面の河原地の中の道なので樹冠が切れているところでは少しかかるブッシュを掻き分けて、馬羅尾山からの小沢を渡り、更にもう一本枝沢を渡ると、本流の沢筋に平行した谷間の中を進む。分流のように河原地になっているわけではないので、地すべり跡の舌の先の内側なのかもしれない。この谷間に入ってからまたしばらく道が良い。岩の上に立つ栂の木を右手に見ると電光を一回切って一段高いところに上がる。

 一段上がると山の斜面のトラバース道となり、多少道が細くなる。大芦間谷の方から沢音が響くようになる。足下に幾らか小滝が見える。大芦間谷と書いてきたが「馬羅尾沢」とか「瀧ノ澤」と書いている資料もある。滝ノ沢の滝とはこの辺りより上流の小滝の多さを指したものだろうかと考えたりしていたが、大芦間谷本流が馬羅尾沢で、その上流の不動滝のある沢が滝ノ沢ということのようである。標高1360m附近で右岸に渡り、僅かに森の中を進むと不動滝の下の二股である。この二股で馬羅尾沢は二つに分かれ、左が不動滝のある滝沢で、右は前ソタル沢と呼ばれる沢か。岩は右股も左股も白いのに右股の水中にだけ苔が付いているようで水が黒っぽく見える。この二股から不動滝まで沢の両側が新しく崩れており道が見当たらなかったので沢の中を行く。この区間は嘗て道は右岸に付いていたのではないかと思う。沢は広く水はそれほど多くなく沢の中でも靴を濡らす事はない。

 沢が左にガクッと折れた先に不動滝がある。大まかに数えると四段になっているが、下の二段は段に数えるよりナメと言うべきなのかもしれない1m程度の緩いものである。下から三段目が7m程度の斜瀑で本滝である。下の二段はピンク色の岩に白泡がチャラチャラ見えるが、本滝は天気が良いと白い岩の上を透明な水が流れていて、流れているのに水が見えない。曇っていると岩がピンクに見えるので水が落ちているのが分かる。最上段は2m程度か。下の二段のナメ滝の上で左岸に渡って軽い岩登りをして巻いて登る。巻く途中に流れる枝沢は湧水のようで、樋から水が汲めるようになっていたが足場が悪い。滝の上から下が見られる。そのまま左岸の森の中を登るが、次の二股(1455m標高点)の手前で沢筋が岸を道筋まで削っていて足場が悪い所がある。山手側には笹の緩斜面が広がっているので、その内少し山手側に付け替えられるか、それとも沢の中を歩くことになるのか。

 1455m二股で渡渉し、右岸に沿って左股に入ればすぐに尾根取り付きである。二股から荒れた谷の中だが取り付きまでは僅かな距離である。取り付きは目印のテープ以外は見落としかねないパッとしないどうということのない沢の岸である。水流が奥手を流れて見えない、滝のような滝でないような一枚岩の正面に出たら行き過ぎである。取り付きの目印テープに注意する。


登山口からまず橋

あがりこサワラ分岐

あがりこサワラ

徒渉

親子糸滝

木の間越しに滝
この辺りから足場が細い

1370m二股
左の奥に不動滝

不動滝

★尾根取付〜落合

 尾根取り付きからはやや笹の被る急斜面の登りである。細かく緩急の繰り返しがある。沢沿いでも1350mより上で見られた黒いプラスチックの階段が多用されているが、段がかなり崩れている。笹の急斜面は所々で小さく崩れていて、道のつながりが分かりにくい所もある。登り始めると後ろに大芦間谷の最後の二股の右股に掛かる滝が見える。標高1650mには右手に幕のような大岩の下を登る。標高1750m附近にアルミの梯子があったが、岩登りと言うようなところは無い。一応緩急が付けられ、ジグザグに少しでも傾斜を緩めるべく作られた道であることは分かるのだが、それでも急斜面の大変な登り道である。ずっと笹の急斜面で単調でもある。

 稜線に近づくと針葉樹やシャクナゲの木が現れる。上がるに従って笹が多少薄くなるようである。斜面も上の方が緩やかなようである。黒川沿いの行者道に比べれば緩やかに稜線の落合に達する。

 落合から上は行者道のページを参照のこと。


この岩が見えたら
行き過ぎ

荒れた
尾根取り付き

大岩
屏風のような岩

笹被る

シャクナゲ混じる

落合へ

参考文献
有明開山略記,修験道史料集1 東日本篇(山岳宗教史研究叢書17),五来重,名著出版,1983.
松川村誌編纂委員会,松川村誌 歴史編,長野県松川村誌刊行会,1988.
松川村誌編纂委員会,松川村誌 自然環境編・民俗編,長野県松川村誌刊行会,1988.
鈴木和次郎,有明山山麓に分布するあがりこ型樹形のサワラ林,pp2-4,57(5),山と博物館,市立大町山岳博物館,2012.



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(2014年8月10日上梓 2023年1月22日URL変更)