出口峠
でぐちとうげ

 明治21(1888)年頃完成の東ノ川(ひがしのかわ)の出口と、又口川の柳ノ谷(竜ノ谷)出合の又口を結ぶ尾鷲街道の一部。それまで標高の高い龍辻付近を頂点に出口と尾鷲を、委細谷の荒れやすい谷道で結んでいた龍辻越を、より標高が低く荒れにくい尾根道と横駈道で置き換えるべく新しく作られたものと思われる。出口から又口へ歩いてみた。東側の又口側が荒れていた。

出口峠の地図1出口峠の地図2出口峠の地図3

★出口橋〜出口峠

 坂本貯水池の出口橋南詰からスタート。錆の付いた出口橋周辺に家屋はなく無人の湖畔である。湖畔と言っても湖水は切り立った崖の下である。橋の袂に砕かれた木材が敷かれて少しスペースがあるが、湖畔側はそのまま湖畔に落ち込んでいるので落ち着かない。このスペースの奥から道が始まっているが、入ってすぐが材木の欠片が押し寄せていて歩きにくい。足場が悪いのに、すぐ下に深く青い湖水が見えているのが気持ち悪い。

 材木の欠片はすぐになくなるが、道は細くすぐ下に湖水が見えているのが相変わらず気持ち悪い。出崎を回り込むとすぐに分岐があり、左の水平道は委細谷の奥へ向かっているようである。右の登り道に掛かる。標高600m弱の鞍部まで単調な斜面の登りである。すぐに湖水が見えなくなるので気持ち悪さは無くなる。鞍部まで植林下で、鞍部の直下で一度ジグを切り、少し広くなっている鞍部に着く。相変わらず植林下である。鞍部の向こう側はアララ谷である。


歩道入口

出口橋を振り返る

歩き始めが歩きにくい

すぐ下が
ダム湖

分岐
左は委細谷方面へ

単調な
登り

 鞍部から、地形図では尾根線に忠実に道が付いているように描かれているが、実際は勾配を緩めるべく尾根の右に左にとジグザグに道が付けられている。鞍部から最初は左手の尾根の北側に入る。ジグを切って尾根線まで上がると鹿除けのネットがあり、ネットの向こうにモノレールと坂本貯水池が見えた。登るにつれて自然林が混じりだし、800mを超えると殆ど自然林である。尾根の勾配は地形図に分かるように次第に急になり、ジグザグに登る道にも石の階段が続く箇所が現れる。ちょっとした岩尾根状の箇所もあるが、その脇を石積みの道で登っていく。


鞍部だけ道が細い

雑木林が混じる

石の階段

植林に戻る

岩尾根の脇

 標高950mから右手アララ谷の斜面のトラバース道となる。木の間越しに坂本貯水池が見える。殆ど垂直に見える急な斜面に掛けられた石の桟道で、大台ヶ原の筏場道に似た雰囲気である。所々桟道が崩れていたが危険というほどの所はなかった。筏場道と違うのは狭い急斜面に付けられた道にも拘わらずジグザグを切っていた箇所が幾らかあったことである。人が歩くことだけが考えられた出口峠道に対し、筏場道は牛の通行も考えられていた故かと考えてみる。

 いつしか垂直に見えていた斜面も寝始めて、ヒメシャラの木が目立つようになり、石の道から土の道に替わって踏み跡のように細くなると、緩い鞍部の出口峠に着く。出口峠では又口側から風が吹き抜けていた。ヒメシャラの目立つ明るい自然林の出口側と、桧の植林で真っ暗な又口側が対照的である。


崩れかけた
石の桟道

斜面が
広くなる

木の間越しの
坂本貯水池

出口峠

★出口峠〜又口橋

 桧の植林の中を南へ緩やかに下る。地形図では出口峠直下の勾配が急なように描かれているが、実際は緩やかである。峠からしばらくは石積もなく、柔らかい地道が続いている。次第に石積みの道が現れ、尾根を南に回り込む辺りの山側に岩屋状になった箇所があった。山の斜面が立っていて殆ど垂直に見えることがあるが、この辺りではまだそれほど高さを感じない。石積み(ツジカケ)が見事である。

 1167m標高点からの沢には水がない。次の沢にも水がないが、巨岩が僅かにずり落ちて沢を塞いでいる。出口峠側からは下に道の続きが見えているのだが、下側から見ると道が峠方面に続いているのが見え辛かった。巨岩の下を通るが危険ではない。

 道の谷側にヒメシャラの木を従えたオニギリ型の岩があった。そのオニギリ岩の先に露岩があって、柳ノ谷の源頭が見渡せる。柳ノ谷最大の駒ノ滝が遠いながらよく見える。


出口峠を後に

桧の植林を下る

岩屋

ツジカケが見事

石積みが
見事

大岩の落石
(下から)

駒ノ滝展望岩
(オニギリ型の岩)

駒ノ滝遠望

 石積みが相変わらず見事である。ゴーロの斜面では桟道だけでなく法面にも石積みが見られる。次に尾根の鼻を南に回り込む辺りでは、切り立った斜面に高さがあり、なかなか恐ろしい。黒部日電歩道のような高さと「コの字型」に抉られた道とは言わないまでも、断面が楽譜のナチュラル記号のような絶壁に細い足場だけを掘り込んだような箇所が断続的に現れる。次の沢には水があり、峠までの最終水場である。沢にも洗い越しになるように石が積まれており、見事である。

 この最終水場の沢を過ぎてしばらくの所で5m程に渡って桟道の石積みが崩れていた。桟道の上側は大岩で巻ける気がせず、下側は2mほど下に細い土付きがあるものの、その下が数十m下まで切れ落ちた岩で、引き返して出口峠から尾根伝いにアゲグチ峠を経て又口へ下りることも考えたが、細い傾いた足場に慎重に足を進めて通過した。

 尾根の鼻を一つ回り込むと今度は踏み板の朽ちた錆びた吊り橋が現れた。踏み板も一部が落ちているが樹木が横から吊り橋の中に茂っていて渡れる気がしない。ここは先人の情報に従ってモンキークライムダウンで30mほどの谷を下り、登り返した。ロープがあった方が良かったかも知れない。吊り橋の又口側には板材が散乱していた。踏み板として使うべく用意されたが使われなかったのだろうか・・・。

 続いて3mほどの橋の落ちた斜めのルンゼ。ここは左岸側が上に巻けて、右岸側の丁度良い位置にツバキの木が一本生えているのを掴んでそれほど問題なく通過。上記桟道崩落箇所から、このルンゼの橋の落ちた場所までの一角が出口峠道の難場である。


石積みが見事

ちょっとした切通し

沢にも石積み

桟道崩落箇所

細い桟道を塞ぐ落石

朽ちた吊り橋

吊り橋
又口側から

落橋の
ルンゼ

 アゲグチ峠道との分岐は地形図の記載(2016年現在)とは異なっており、尾根筋にあり、分岐にはお地蔵さんがある。お地蔵さんには「左 坂本、右 出口」と書かれている。道しるべのお地蔵さんであった。このお地蔵さんは出口側から来ると見つけづらい位置にある。分岐付近は小低木のブッシュが茂っており、道の路盤には崩れてきている小石が積もり、あまりはっきりしていない。

 次の沢は苔むした小ぎれいな滝を掛けている。この沢から次第に標高を下げていく感が強まり、柳ノ谷の沢音が聞こえるようになる。標高300mから200mに渡って新しい皆伐地を横断する。倒木が道を塞いでおり乗り越えるのが難儀であった。この皆伐地の手前の小尾根に古い弱い道が有り、小尾根から西の谷間に入って林道に下りることが出来る(2016年の再訪時に歩いてみた)。柳ノ谷を覗くと、もう林道も足元に見える。しかし、その先も古い皆伐地を横断する箇所が多く、コシダや茨のヤブが多くて歩みは進まず、なかなか林道が近づかない。下手に林道に下りようとすると、林道の法面が崖になっている事が多いので危険である。沢を横断する箇所では石の桟道が落ちていることが多くなるが、すぐに路盤に復帰出来る。沢から下を覗き込めば林道が見えるのでさっさと下りてしまいたい感にとらわれるが、対岸にはまた石積みが連なっているので、一応は出口峠の道を完全に通して歩きたいということで岸をよじ登ってまた桟道に上がることの繰り返しである。

 県境を越える辺りでまた大きく桟道が崩落していて、林道まで10mほどの崖になっていた。ここは上から簡単に巻くことができる。巻き終わると又口にほぼ到着である。又口橋から斜面に作業道が張り巡らされている裸地に出る。古い道の末端は新しい作業道に削られて無くなってしまったようである。作業道を又口に下りる。又口川左岸には崩れかけた廃屋と、巨木の根元に山の神がある。

 又口橋の旧橋は今の橋より下手の柳ノ谷落ち合いすぐの所にあったようで、又口橋を渡った先の尾鷲市又口山林事務所の裏手に石垣の橋台が残っている。旧橋の上手側は出口峠道又口側の中ほどと同様に急斜面に貼り付いたツジカケの足場に依った道であったのも見て取れる。


アゲグチ峠分岐
右がアゲグチ峠へ
左は又口へ

分岐のお地蔵さん

ジグザグを
交えて

こぎれいな滝

皆伐地

又口橋が見えた

又口の山の神

又口橋袂から振り返る

参考文献
玉井定時,奈良市教育委員会文化財課,里程大和国著聞記(玉井家文書庁中漫録20),奈良県立図書情報館.
奈良県吉野郡役所,奈良県吉野郡史料 下巻,奈良県吉野郡役所,1923.
奈良県教育委員会事務局文化財保存課,東ノ川(上北山村文化叢書1),上北山村役場,1962.



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(2015年5月4日上梓 2016年6月3日加筆)