崕山の位置の地図

崕山(1066.2m) モニター登山報告
きりぎしやま

 崕山は1000m強の低山であるが、石灰岩からなる特殊な土壌ゆえにもっと標高の高い山でしか見られない高山植物や、ここでしか見られないような稀少な植物が分布し、白い岩峰が林立する独特な景観だが、その登りやすさと奇景、稀少な花と豊富で魅力的なクライミングルートを目当てに登山者が集中し、またマイカーでの入山が容易であったことから取り返しの付かない規模の盗掘を招き、現在は地元の関係団体によって入山制限が敷かれている。入山制限後は、その荒廃と回復を世間に見てもらうために年に数回、人数を限ってモニター登山が実施されている。2006年度のモニター登山参加の抽選に当選し、崕山に登る機会を得たので、その様子を報告する。



残月峰

 モニター登山は一年に6回実施(2006年現在)。抽選倍率は平均で3倍強とのこと(2006年度)。

 前日は芦別市道の駅横の百年記念館で14時から17時までビデオやスライドを見たり、話を聞いて研修を受ける。これを受けなければ翌日登らせてもらえない。

崕山の地図

 当日は朝6時に道の駅駐車場に集合し、主催者側の用意したバスで登山口へ。途中、コピーできないと言う電子錠のゲートを開けて更に11km。登山口は、かつて盗掘と荒廃の入口となって今では廃止された尾根コース登山口の数百m先の土場跡だ。後方には残月峰の姿が既に見えている。

 ここから崕山の東側を流れる惣芦別川の左股に沿った作業道跡を、2回本流を渡渉して右岸3本目の「扇の沢」に入る。

 沢沿いには明瞭な踏み跡があることが多いが(2003年から使用しているルー ト)、渓流足袋が有利だ。1m程度の小滝を登ることもある。

 前日に説明があって、長靴にシュロ縄を巻いて歩いている参加者が多かった(シュロ縄は芦別市内のホームセンターで購入可)が、巻き慣れていないので途中でほどけたりしている様子が見られた。スパイク底は禁止とのこと。沢の中には貝殻の化石の見える白い石灰岩が時々転がっている。

 沢としての傾斜は緩い方だ。途中、「水場」と呼ばれていた細い支流の出合で、初めてホテイアツモリがヤブの中の遠くに見えたが、まだつぼみだった。

 水流がかなり細くなり狭かった空が明るくなる標高まで登ると沢を離れ、モニター登山のために新しく刈り分けたと言うネマガリタケの中を少し登る。ここは急傾斜だが、すぐに視界が開けてきて白い岩峰が近づいてくる。しかし、まもなく岩に触れるかと言うところ、お花畑草原とネマガリタケのヤブの境、昔の尾根コースとの合流点で「ここより上に大人数がまとめて植生に影響なく休めるところがない」とのことで、ここで昼食休憩となる。道のすぐ先にはレブンコザクラやミヤマアズマギクが咲いているのが見えるが、自分の食事が終わっても先に見させてくれない。団体行動だから仕方ない。

 昼食休憩が終わって、山頂までの数百mだけが崕山ならではのものだった。参加者は皆、数箇所、花にして15個ほどのホテイアツモリに興奮していたが、自分としてはホテイアツモリだけが花ではないのになぁと言う気がした。花としてはカマヤリソウやヒロハヘビノボラズの方が好きだったりする。


レブンコザクラ

ヒロハヘビノボラズ

ホテイアツモリ

 しかし、ホテイアツモリの数百mにおける分布は、他の山での同じ規模のお花畑における大形の花の分布に比べると、やはり非常に少ない印象を受けた。登山後の反省会では「初めて崕山に登って旧尾根コースをあれだけしか歩かないのでは荒廃も回復も分からない」という意見があったが、他の山のお花畑草原を見たことがあれば、崕山のホテイアツモリが不自然に少ない感じはするのではないかと思った。

 今回のコースではキバナノアツモリソウやキリギシソウ、オオヒラウスユキソウは見られないようだ。或いはこれらの花も、本来は今回歩いた数百mの中に生えていたのに盗掘で無くなってしまったのかも知れない。サクラソウモドキはあったらしいが見落としたようで見ていない。


山頂からの芦別岳方面

お花畑の草原

 最後に10mほどの岩場を、狭いので5人ずつ位になって交代で登って山頂に立つ。中には不慣れな感じで落石を起こしている方もいたが、高さが無いので落石や、その振る舞いに危険を感じることはない。天気は晴れていて、芦別岳方面がよく見えた。夕張岳と大雪山は、山頂は雲に隠れていたが残雪がまだ残っている様子が見えた。

 下山は沢から離れた地点まで登りとは別の刈り分けを使って下りる。ネマガリタケの切り口がまだ新しい道で、傾斜もかなりきつくロープが張ってあるが、渓流足袋では滑りやすくて大変だった。この新しい刈り分けは登りのコースでは落石の恐れがあるとのことで森林管理署からの申し出で刈り分けることになったそうだ。

 扇の沢を下り終わり、惣芦別川左股本流まで下がると小さなビニール袋が配られて、セイヨウタンポポの駆除の要請がされる。本当は根っこまできちんと駆除するのが良いのだそうだが、中途半端にやると割れた根から株が増えるとのことで、花と蕾と種だけを摘むように言われた。花や蕾は腐って土に還るのだから摘んだらそのまま捨てておけばいいのでは?と質問したら、花や蕾が茎からちぎられて離れても、セイヨウタンポポの場合、種が実ってしまうのでビニール袋に回収しなければならないそうだ。


山頂から南側を望む

 コース一帯は既に何度かこうしたセイヨウタンポポ駆除が行われているとのことで、それほど摘む必要はなかったのだが、帰りのバスの途中で、林道の途中の崕山がよく見えるスポットで撮影会としてバスを降りた時に、林道脇や駐車スペースに沢山セイヨウタンポポの種が実っていて、先は長いなぁと感じた。風に乗っていくらでも飛べるセイヨウタンポポの種を考えると、北海道民全員で街中でも毎週一回、セイヨウタンポポの花摘みでもしないと崕山から完全にセイヨウタンポポを追い出すことは出来そうにない気がした。

 札幌の神威岳の登山道の下の方(短縮路)でも、近年セイヨウタンポポが目立ち、ニリンソウが減っているような気がする。今後の登山トレンドとして、登山中にセイヨウタンポポの花を見つけたらゴミ袋に摘むというのがマナーになったりして・・・。

 こうした囲い込まれた登山は健全な姿とは思えないし、入山制限が無期限になっていることに関しては議論もあるようだが、自分としてはこのまま続けていかなければ崕山の植生はまだ危機的状況が続く気がした。

 それからモニター登山の人数だが、自分としては沢登りに不慣れな人も多く参加していることから、今のスタッフの数ならもう少し減らした方が良いような気がした。30人と言えばツアー登山としては比較的大人数である。稀少植物の分布する上部のエリアでは道がはっきりしていて問題はなかったが、沢登りの途中では登りにはあった苔が(先頭付近を歩いていた)、帰りにはすっかり禿げて泥が露出していたのを見たりすると、やはり大人数過ぎたのではないかと感じた。これからそうした部分もこのルートがモニター登山用に定着し、「登山道」となってしまえば気にならなくなるのかもしれないが。

 なお、崕山自然保護協議会では入山を自粛するように要請しているのが法的な効力を持ったものでないことから「入山禁止」、「入山規制」の言葉は使わず、「入山制限」の言葉を使うようにして欲しいとのことだ。



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(2006年7月8日上梓)