ジンネム高盤岳 (1734m)(別名・小豆岳、屏風岳、障子岳)
じんねむこうばんだけ

 ジンネム爺さんが初めて登ったと言われる道のない山。七五岳から眺めると烏帽子岳の後ろにカムエク(≒剣岳?)を髣髴とさせる姿で非常に大きくそびえ、登りたくなる山。しかし、前岳でも奥岳でもない中途半端な位置から、昔から登られることは少なかったのではないか。トーフ岩(食パン岩)の乗っている本高盤岳とは全く別の山である。「小豆岳」、「屏風岳」とも言ったらしい。「ジンネム」爺さんとは日本人離れしたお名前だと思っていたが、「善右衛門」を鹿児島弁で発音すると「ジンネム」になるらしい。屋久町郷土誌では「ジンジョム高盤岳」としている。

 「高盤」と言う字面には「高い岩盤」のイメージがあるが、あまり聞いたことがない言葉である。高盤とは足があって高さのある大皿を言う単語のようだが、「たかさら」と読むので「こうばん」と読むジンネム高盤岳の名とは関係がない。「高盤」の用字は単に宛て字なのだろう。「コバの岳」を薩摩弁で発音したような気がする。屋久島方言では、各戸に割り当てられないで自由に焼畑などに使ってよい土地を「コバ」と呼ぶと言う。ここまで高山では焼畑はしなかったかも知れない。奥山で林産物を自由に採取してよい岳であり、かつ善右衛門爺さんがコバとして使っていた場所の岳が、ジンネム高盤岳ではなかったかと考えてみる。


歩行日・・・2003年4月8日
五万図・・・「屋久島東南部」
時間・・・淀川小屋-4時間弱-ジンネム高盤岳南峰
アプローチ・・・紀元杉までバスが1日2往復。そこから淀川小屋まで登山靴で1時間弱。午前のバスで来ると、登って麓のワレノ岩屋に戻ってちょうど夕方。


じんねむこうばんだけのちず 淀川小屋の横から入渓する。しばらくは水面が見えないほど静かな、腰ほどのよどみを行くが、次第に浅くなる。30分ほど、どこまでも続くかのような細長い日本庭園の中を散策する気分である。ほとんど落差のない川床には甌穴が多く見られ興味深い。甌穴による人面岩や中のつながったものも多数ある。 


淀川上流
こんな写真では
美しさを伝えきれない

 途中、地図上では分流が幾つかあるようになっているが、 いずれも小さく、吐合が樹林に覆われて気がつかぬ間に過ぎてしまうこともあるだろう。周りの変化には気付かぬほど、この日本庭園には目が釘付けである。

 大きな岩が見え出すと、二つ小さな函が現れるが、いずれも簡単に巻ける。二つ目の函を越すとすぐ、第一の二股である。水量は1:1。

 沢幅はきっちり半分になり、両岸の樹林が重なるようになるので沢の中は暗くなる。沢はせせらぎの装い。続いて第二の二股、すぐ第三の二股、いずれも水量は1:1。第三の二股は左に入るとジンネム高盤岳の北面の直登沢であるが、今回はまだ屋久島の沢に慣れていないということで、一旦湯泊歩道に入るべく右を取る。北面ならヤブの発達もそれほどでないと思われるので、直接北峰最高点にあがる沢として興味はある。誰か行かれたら状況を教えて下さい。私も次回があったら挑戦します。

 少し進んだら、適当に左の小さい流れに入って、湯泊歩道に合流する。湯泊歩道はしっかりヤブが払われているので誤って行き過ぎてしまうことはないだろう。乗越し付近では少々ヤブがあるが、これは仕方ない。また、沢登りで行かず登山道を花之江河経由で来てもこの地点に来ることは出来るが、少しは沢経由のほうが早く、景色はこちらのほうがずっと良かろう。花之江河は宮之浦岳や黒味岳に登る時だって堪能できる。

 湯泊歩道のジンネム高盤岳北西稜取り付きから、北西稜上に踏み跡があるような気がしたが、上のほうは確認していない。

 ジンネム高盤岳の西斜面に入るとまもなく1張り分のビバークサイトがあり、そのすぐ先にワレノ岩屋がある。ワレノ岩屋は中を水が流れている上に、床が傾いていて風通しが良過ぎて、あまり快適そうでない。座って休む分には7,8人は休める。

 西面直登沢はワレノ岩屋を後にして小尾根を乗り越していくつか目の水流で、初めて顔を洗えるほどの水の量のある沢である。

 はじめのうちはただの急な沢だが、登るに連れて(小)巨岩が現れ、ヤブがひどくなってくる。水流は山頂直下まであり、コル付近は平坦で複雑な地形で、ヤブでかなり暗いので目印テープを持参することを勧める。しかし、どの流れに沿っても結局は同じところに帰れるだろう。

 北峰標高点はヤブの中で展望はない旨を事前に得ていた。展望のないピークに興味はないので(負け惜しみ)迷わず南峰を目指す。少し開けるとトゲのツルがからまる激しいヤブをかき分け、ひとつ小さな露岩を越えるとまもなく南峰だ。巨岩でなっており、七五岳と永田岳方面の展望が得られる。七五岳は微妙に珍しいアングルで、北壁の高さ400mと言われる一枚岩の曲線が妙になまめかしい(逆光につき写真不鮮明)。そして北峰は確かに潅木で覆われていた。


ジンネム高盤岳南峰から見た七五岳

奥がジンネム高盤岳、手前が烏帽子岳
(七五岳から)

 この日、猛烈な西風が吹いていて露岩の上ではほとんど立っていられなかったがヤブの中は静かなもので、山頂近辺は平坦なのでビバークも出来そうだ。下りは登りのヤブ越え岩越えのつらさはなく、スムーズに下りられる。

 また、鯛之川から上がるジンネム高盤岳北東面源頭は、背丈を越えて足のつかないほどのシダ植物と潅木のヤブとのことで、自分はそちらからの登頂はやりたくない。チャレンジャーはがんばってください。応援します!


参考文献
屋久町郷土誌編さん委員会,屋久町郷土誌 第一巻 村落誌 上,屋久町教育委員会,1993.
楠原佑介・溝手理太郎,地名用語語源辞典,東京堂出版,1983.
日本大辞典刊行会,日本国語大辞典 第八巻 こく〜さこん,小学館,1976.
宮本常一,屋久島民俗誌(宮本常一著作集第16巻),未来社,1974.(1943年ものの復刻)



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(2003年4月17日上梓)